特集/座談会

なぜ家型なのか タトアーキテクツ/島田陽建築設計事務所 ホームページへ 藤村龍至建築設計事務所 ホームページへ 吉村靖孝建築設計事務所 ホームページへ

——切妻屋根はときに「家型(いえがた)」と称されます。本日は、その家型を、それぞれの使い方で用いている3人の建築家に集まっていただきました。まずは、みなさんにとって家型は、どういう存在なのでしょうか。また、「石切の住居」「家の家」「CCハウス」では、どのような経緯で家型を用いることになったのか、教えてください。

島田 陽 「比叡平の住居」(2010)(「TOTO通信」2013年 新春号 特集2 12〜25ページ)や「六甲の住居」(11)、そして今回の「石切の住居」などで家型を用いています。最初に家型を用いた「比叡平の住居」では、3つの理由で家型を採用しました。ひとつは、技術的にプリミティブな問題として、切妻屋根は簡単な納まりでローコストにつくれる点。また、風致地区なので、法規的にも勾配屋根にする必要があったこと。最後に、家型の親しみやすさ、精神の深いところに触れるイメージの力です。ここでは平屋の小屋のプロポーションを参照して少し拡大してつくることで、家の大きさを実際より小さく見誤らせることを試みました。そういった理由で家型を使いはじめ、家型の力に気づかされました。今回の「石切の住居」では、隣家が切妻の家型でしたから、それに揃えようと思いました。一般に家型には、さまざまな要素を強い形態でパッケージ化して統合する働きがあると思うのですが、複数の要素を等価に扱おうとした「石切の住居」では、むしろ家型の強い形態性を利用して、パーツのひとつとして用いることを試みています。
藤村龍至 私の出身大学(東京工業大学)の先生方、故・篠原一男先生、坂本一成先生、塚本由晴先生は、全員が家型の住宅を設計されていたので、すでにならうべきロールモデルがありました。大学院生のときに坂本先生の「家形を思い、求めて」を読み、とくに影響を受けました。「『家形を思い、求めて』を追い求めて」という感じでしょうか(笑)。また東工大の出身者は、篠原先生の「白の家」(66)や、坂本先生の「散田の家」(69)などにならって、正方形平面で名作住宅をつくってきた流れもあります。そのため、家型や正方形平面は、自分のなかで、ずっと憧れていた存在だったのです。今回の「家の家」という住宅は、そのタイトルで示したように、家のような記号をもった家を目指しました。ある種の家の原型をつくりたいと思ったのです。これまでの住宅の設計のなかでも家らしさとは何か、ということをずっと考えてきましたが、今回ようやく、家らしい家を提案できる条件に巡りあえました。家らしさの表現として、家型の妻面を正面に向けています。
吉村靖孝 最初に誤解のないように言っておくと、「CCハウス」というのは、僕が設計した家型の案だけではなく、クリエイティブ・コモンズ(CC)を用いて図面を汎用、販売するプロジェクト全体の名前のつもりです。だから、「家の家」の図面を販売しても「CCハウス」ですし、僕が提案した連棟の家型は、ひとつの例にすぎないのです。ただ、あの展覧会でお見せした提案が家型であったことには、後から考えると、このプロジェクトにとって重要な意味があったと思っています。近代の分業化の過程で、住むことと建てることが分離してしまっている状況があると思います。住まい手がつくり手になれなくなっている。そうした問題意識のもとで、建築家とつくる一品生産の住宅と、商品化住宅の中間として、「CCハウス」を位置付けたかったのです。つまり、最終的には、図面はプロが配布するけれど、素人の住まい手でも自分で住宅が建てられるようにしていきたい、というもくろみがあります。先ほど、島田さんが切妻、つまり家型は技術的に簡単に用いることができると言いましたが、僕もそれには同感で、「CCハウス」でも、住まい手がつくるからには簡単な技術でできるものを提供しなくてはならないと考え、家型を選択しました。家型は形態だけではなく、生産面でもプリミティブなものだと思っています。
  • 1/7
  • →
  • Drawing
  • Profile
  • Data

TOTO通信WEB版が新しくなりました
リニューアルページはこちら