特集/インタビュー2

体験をつくりりだす壁 島田 陽 ホームページ へ 島田 陽 ホームページ へ

3つの家型による風景

——今回の特集では、あえて建築の「部分」のひとつである「壁」を取り上げます。建築要素のひとつを新しい視点から見ることで、空間全体も新しくなるのではないかと考えてのことです。この「比叡平の住居」(以下、「比叡平」)をメインにしながら、島田さんが空間をつくっていく発想から実際まで、壁と空間との関係をうかがいます。
 まず、「比叡平」を分棟型の配置としたのはなぜでしょうか。

島田 陽(以下、島田 建て主は美術作家なので、アトリエをつくるという前提がありました。ローコストの計画(総工費1960万円)ですから、住宅と一緒にまとめてしまうほうが、外壁が少なくなって合理的ではある。ただ、住宅とアトリエとほかのスペースを全部まとめたボリュームをつくるのは、この住宅地にはインパクトが強すぎます。建て主もアトリエと住宅は分かれているほうが気分が切り替わっていいというので、まずそのふたつを分けました。 
 それから、アトリエ自体が住宅地においては異物なので、人が受け入れやすいようにするにはどうしようかと考えました。それともうひとつ、この地域は勾配屋根が義務付けられているという条件がありました。街並みを眺めると、条件をひねって無理にフラットな屋根に見せる必要もない。そんなことで家型に至ったんですね。家型をふたつ並べる。また、建て主の作品のテーマに「複製」という考え方があったので、普通の家を複製して中身は違う、リノベーションのような新築はどうかと、事務所内では冗談で話したりしていました。それで結局、両親のためのスペース(多目的室)も分けて、3つにしようと。
 家型がいくつかあると、それだけで風景がつくり出せますよね。3つあれば、もう、ひとつの風景になる。ある程度敷地が広い場合には、非常にいい答えだと思います。この街並みに後から参加しているわけですけれど、3つ同時にできるとあまり違和感が生じないかと。
 ですから、分けることと家型を選択することとは同時に決定しました。ローコストで積雪もあるため、あまり複雑な屋根仕舞いにはしたくない。それで、とても単純な家型を選択しています。
 とはいえ、大きなものが3つ並ぶのもインパクトが強すぎるので、なるべく小さく見えるようにコントロールしようと考えました。みなさんの心の中にある、いわゆる「小屋」を拡大してつくっているんですね。窓の位置を高くして、1、2階をまたぐ窓としたりしている。イメージのなかの窓と建物の比率によって全体をギュッと小さく見せる。それは、単に小さく見えるからおもしろいというより、自分の状態によって感じ方自体が変わるのがおもしろいと思ったんです。じつは上棟時には、「ボリュームが大きすぎる。失敗した」とショックを受けました。それは窓が付いてなくて、記号の操作が脳を経由していないからだったんですね。軸組だけで見ると大きすぎるけれど、窓が付くと印象が変わりました。

——絵に描かれるような「小屋」は、窓付きでイメージされているわけですか。

島田 どうもそのようですね。平屋の1.7倍くらいの大きさにしましたが、1.3~1.5倍くらいにしか見えない。

——屋根は矩勾配に近いですね。

島田 はい、頂部で100度開いています。模型で検討して、90度だとライズが高すぎるので、ちょっと下げました。


>>「比叡平の住居」の平面図を見る
>>「塩屋町の住居」を見る
>>「山崎町の住居」を見る

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