特集/インタビュー2

斜めの壁が生み出す余白

——この住居棟を特徴付けている、斜めの壁についてうかがいます。

島田 当初、住居棟は「平屋+ロフト」程度で依頼されたんですが、2回目の打ち合わせのとき、「2階がもうちょっとほしい。下の階と切れているほうがいい」という話が出てきました。でも外のボリュームを大きくしたくなかったので、それは変えない。ふつうに垂直に壁を立ててしまうと、ロフト部分は窮屈な狭い場所になってしまうので、壁を倒してみたら、結局、天井と壁の中間みたいなもの、床と壁の中間みたいなものになった。そうすると、1階にとっても2階にとっても、お互いに"自分のもの"と思えるような、いい勾配ができました。家型というのは決めていたので、家型の天井面を複製してこっちにもってきて、さらに複製してもってきてという操作を繰り返して、こういう空間ができたという感じですね。
 同時にここでは、あまり収納を用意できないことはわかっていました。

——つくり込んでいないというか、造り付けの家具や装備はとても少ない印象を受けます。

島田 ローコストでもあるし、建て主はものづくりのプロフェッショナルなので、「後からつくりたい」という話がありました。ダイニングテーブル脇の棚もそうですが、後でいくらでもつくることができる。建て主とのコンセンサスとして、お互いに後で手が出せるようにしておこうという感じだったんですね。すると、やがて室内にバーッとものがあふれてきます。その状態を美しく見せるには、勾配のある大きな天井、2階では勾配のある大きな床面があって、"ものを置けない場所"ができるのは非常にいいと思いました。余白みたいなものが住宅の中にあって、ずっと手がつけられない、竣工時からほとんど変わらない場所になる。

——室内はスケールが変わって見えますね。遠くから見て小さいと思えた小屋が、近寄るとわりと大きくて、でも中に入ると、もうひとつ小さくつくられている。二重に裏切られるような感覚です。

島田 そうですね。そのような状態を目指しています。さらに、中に入ると見覚えのある屋根勾配みたいなものが出てくるので、その上が外部のようにも感じられます。ところがその勾配面に開口部があって、そこに入っていける。ここでもまた裏切られるわけです。入るとその上の勾配面にも開口部、じつはトップライトがあります。小さな住宅ですが、そういう操作によってどこまでも広がっていく。2階の上にもまだあるんじゃない?というようなことを感じてもらえればなあと。

——1階の天井——斜め壁の開口がトップライトに見えるというのは、正方形で、フレームを見せないことにもよるのでしょうか。

島田 はい、どうやったら効果が出るかというのはすごく考えますね。見上げたときに、ガラスの面は一番奥にあるべきだとか。

——この斜めの壁は、どんなときに思いつくのですか。その大きさは模型で確認するのでしょうか。

島田 外側のボリュームは配置から決めていたので、それをどう内側で切り取るかを試行錯誤していました。模型と図面とは同時に進めて、スケッチで確認したり……。ある瞬間、壁を倒してみたら、非常にいい大きさになった。ズバッと一気に全部ができたという感じです。この倒し方によって、空間のくびれみたいな、奥行きのようなものが複雑に出てきて、いいんじゃないかと。これができてから、ほとんど変わっていないです。


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