出展者について
「未来の種としての建築」
建築をつくるということは「未来の種」を蒔くことではないでしょうか。
僕たちが設計する建築は、敷地の条件やクライアントの要望、地域社会の文化的歴史的な背景などに耳を澄まし、さまざまな要因と対話をする中からインスピレーションを得て現実の場所をつくり出すものです。それは現実社会の潜在的な可能性に形を与える作業だと言えるかもしれません。そして可能性が顕在化することを未来と呼ぶとするなら、そのきっかけとなる小さな建築的な提案は「未来の種」なのです。
それは未来を予想することとは違います。また未来を決めつけることとも違います。完成された未来図ではなく、むしろ未来の無数の断片とでも言うべき、可能性と予感の「種」を蒔いていくこと。
大学生時代、ル・コルビュジエやミース・ファン・デル・ローエといった偉大な建築家の作品は、僕に建築の喜びと大きなインスピレーションを与えてくれました。それはやはり未来に向けて蒔かれた無数の種から、小さな可能性が芽吹いた瞬間のひとつであったと思うのです。
この展覧会では、過去の代表作や現在進行中のプロジェクトだけでなく、未来に向けた僕自身の現在進行形の試行錯誤を展示したいと思っています。
それは見たことのない奇妙な建築かもしれません。 まだ建築になりきれていない、予感の予感のようなものも多く含まれているかもしれません。 しかし、それらはどれも、建築のもっとも本質的な問い掛けから始まっています。未来に、僕たちはどんな場所に、どんな社会に、どのように住むのだろうか? 身体と空間、内部と外部、自然と人工、個と共同体の関係とは? もっとも原初的な問いこそが、未来へと繋がっていくのです。
未来へと投げかけられた種がまた新しい未来をつくり出す。その思いを込めて、展覧会のタイトルを「未来の未来」としました。これらの開かれた未来の種から、皆さんとともに、さまざまな未来の未来を想像していくことができれば幸いです。
藤本壮介
藤本壮介(ふじもと そうすけ/Sou Fujimoto)
© David Vintiner
1971年北海道生まれ。1994年東京大学工学部建築学科卒業、2000年藤本壮介建築設計事務所設立。主な作品に「Serpentine Gallery Pavilion 2013」(イギリス、ロンドン、2013年)、 「House NA」(東京都、2011年)、「武蔵野美術大学美術館・図書館」(東京都、2010年)、「House N」(大分県、2008年)。
Liget Budapest House of Hungarian Music(ハンガリー)国際設計競技一等受賞(2014年)、Wall Street Journal Architecture Innovator 2014(2014年)、モンペリエ国際設計競技最優秀賞(2014年)、第13回ベネチア・ビエンナーレ国際建築展日本館の展示で金獅子賞(2012年)、王立英国建築家協会(RIBA)インターナショナル・フェローシップ(2012年)、台湾タワー国際設計競技(台湾)1等(2011年)、ベトン・ハラ ウォーターフロントセンター国際設計競技(セルビア)1等(2011年)、JIA日本建築大賞(2008年)など受賞多数。