
「第五十二條 本法ハ建築物ニ適用セス」——明治32(1899)年に日本最初の著作権法が制定されたとき、建築物はその適用から除外されていた。建築は他人のまねをしてもよい、という特例である。その理由は、西洋建築にならうことの多かった当時の日本建築界において、「外国ノ建築物ヲ利用スルノ必要アル」(水野錬太郎)とされた時代性のためでもあった。後の法改正によって建築物の著作権も認められているが、吉村さんの問題意識は、そもそも建築物は現行の著作権法と相性が悪いのではないか、というものだった。建築物は、建主や施工者などの複数の人間とのチームでつくられるうえ、設計者自身も、師匠や先輩から指南を受けるなどのさまざまな経験を踏まえて設計行為をしているため、ひとりの人間の個性だけでは建築物はできていない、という主張である。しかし、多くの創作性をはらんでいるわけだから、旧著作権法のようにまったく著作権がなくてもよいとも踏みきれないだろう。白か黒か、という議論ではなく、グレーを想定する必要がある。こうした吉村さんの問題提起が、まさにCCライセンスとうまくかみあったのである。
グレーを想定する、ということは自身の設計の一部の著作権を放棄して、世の中に同じものが広まることを許可するということである。建築物は、建築物そのものを見ただけではコピーできない。そのため、CCライセンスを表示した図面を配布、販売することとし、その考え方が、「CCハウス展」(オリエアートギャラリー、2010年)にて発表された。どこに建ってもおかしくないように、木造在来構法でつくられた1.5間×2.5間の家型という一般的なモデルを考案し、その2棟の組み合わせで買った人が自分の敷地に合わせて建物を配置することができる計画内容が、図面と模型とで展示された。プロトタイプらしい建築が展示されたが、本来はむしろ個性豊かな建築でも、需要次第でコピーされる可能性を問うたプロジェクトである。展覧会は盛況で、来場したほかの建築家たちも「CCハウス」への参加に意欲的だったそうだ。
この展覧会をきっかけに、建築物の著作権の議論がなされ、大きな意義をもったが、実際の図面販売においては、吉村さんは図面を描いた人間の「責任」という壁にぶつかることになったという。
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