ケーススタディ03

責任の所在、そしてこれからの展開

 じつは、「CCハウス」は建築生産の制度面の挑戦であるとともに、吉村さんには建築の質の変化に対する期待もあった。それは、図面の購入者が、その図面を改変し、その改変内容が販売者にフィードバックされることで、積み重なれば不特定多数の人々がかかわった匿名性の高い図面や建築物ができるのではないか、という期待である。いわば、本来は建築家がたどり着くことはできないはずの「建築家なしの建築」のようなバナキュラーな建築を目指したのである。
 一方で、建築設計には当然ながら、機能面や安全面などのさまざまな点で、つくり手の「責任」が生じるが、そうした事柄の匿名性はどうしても得られなかったという。原作者の意図を超えて、どんどん図面が展開していったとしても、原作者の生産物に対する責任は法的に排除できないのだそうだ。もし仮に全国から多くのクレームが寄せられたときに、それに対応できるだろうか。あまりにハイリスクである。この点を解決することは難しく、このプロジェクトは一度停止している。
 ところが、2014年、再び「CCハウス」は動き出した。それは、吉村さんが販売した図面に対して責任を担う決意をしたことと、図面の内容や、売り方を吟味することで、リスク回避もできるという目算があってのことのようだ。図面の内容については、たとえば当初案では、敷地が未確定のため、窓の位置を特定できなかったが、新案では、敷地境界から引っ込んだ位置に窓が集約される工夫をしている。また2棟ではジョイント部分などに不安があるため、1棟案にあらためるなどの変更がある。売り方については、「図面」ではなく、図面がのった「電子書籍」を上下巻本として販売することを検討しているという。上下巻本であれば、各巻は1棟分に相当しないし、いわば設計資料集となり、使用者の責任で図面を取捨選択することができる、という筋書きとのこと。
 現代の設計の参考書は、ほとんどが事例集、ないしは作品集であるが、吉村さんがつくろうとしているのは、はじめから普及を自覚してディテールまで配布する図面集である。思えば、江戸から明治期にかけて、日本では数多くの汎用可能な建築の雛形本が出版されていた。現代では「雛形」という言葉自体、建築業界ではあまり使われないが、当時は意匠、構法、絵様、彫刻までさまざまな種類の雛形本があり、一時代の建築文化の基底にあった重要な出版物だったと思う。もちろん「CCハウス」が雛形本であるというわけではないが、社会のなかで共有すべきことを直視している点で、大きすぎて目をそむけてしまいそうな「時代」とか「文化」に、かかわっていく流れになるのかもしれない、と頭をよぎる。


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