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素人でもできる舟のつくり方「忘茶舟」 「忘茶舟」詳細ページへ

 藤森さんが台湾につくったふたつの茶室のうち、舟の茶室はモノコック構造によるコンクリート製。正確には骨材は入っていないので、モルタルに近い。レーシングカーなどに用いられるモノコック構造は基本的には骨格をもたず、外皮が応力を受け持つ。いわば殻全体の面剛性で応力を受けるわけだ。
「忘茶舟」のつくり方は至ってシンプル。まずスタイロフォームで芯となる舟の形をつくる。その芯を薄いカゴ状のステンレスメッシュでくるみ、その上からセメントと水に「エクセルジョイント」という特殊な下地材を混ぜた左官材料を塗り込める。エクセルジョイントは藤森さんが熊本の現場で出会った地元の左官材料メーカー、渋谷製作所が開発した下地処理材で、藤森さんいわく「左官を堕落させる画期的な材料」。どんな下地にもくっつき、剥離しないという。ステンレスメッシュを挟むのは、ひび割れを防ぐため。いわばRCの鉄筋のような役目を果たす。
 RC造の発明者といえば、陶器に代わる植木鉢の構造として思いついて特許を取得したという、庭師のモニエが有名だが、藤森さんによれば、じつはこのモニエよりもっと前にコンクリート製の舟をつくった人がいるという。舟の主たる素材はその後、鉄に取って代わられ、コンクリート船をつくった人物も歴史の闇に葬り去られてしまった。
 しかし、藤森さんはなにしろ建築史家だから、当然その歴史を知っていた。確固たる建築、あるいは小島のような存在として、舟の茶室をつくりたいと考えていた藤森さんにとって、コンクリートはまさにうってつけの素材。木造船のように熟練の船大工の腕がなくとも、「素人でも本格的な船がつくりやすいし、FRPのように軽くないから安定感があるんだよ」と藤森さんは言う。
 藤森さんの頭の引き出しに詰まった知識はこんなふうに、フジモリ建築をより毛深く豊かにする種として、随所で目に見えない力を発揮しているのだろう。

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