展覧会コンセプト
篠原一男 空間に永遠を刻む――生誕百年 100の問い
東京オリンピック1964の閉幕から、EXPO'70へと向かう1960年代半ば、日本の先導的建築家の多くは都市空間の進展と直截連動した建築コンセプトの構築に邁進していた。そんな状況のなかで、1辺10m四方の中心からわずかに外した位置に1本の直線を走らせた単純な平面形を瓦葺きの宝形屋根で覆った住宅と、歪んだ平面の土間床の広間に地中に沈む寝室を接続させた異様な住宅で、篠原一男は「空間の永遠性」を表明することになった。これら2つの住宅は、篠原のなかで対照をなす祖型的な空間イメージが込められたものとして「白の家」「地の家」と命名された。「白の家」は2008年に、「地の家」は2025年に、原形をとどめたまま次なる継承者へ引き継がれ、またそれらに先行する作品「から傘の家」も、2022年の秋にスイス・バーゼル近郊に移築再建が完了している。個人住宅の存続が困難な日本の社会的風土のなかで、約半世紀前の篠原の予言がいま、少しずつ現実化しつつある。
篠原は、その生涯を通じて数多くの「問い」を自らに投げかけることで創作の前進を図った建築家である。そうした「問い」のなかでも「永遠性」の表明は、時間とともに変動する建築の仕組みを内蔵したメタボリズムへの対抗意識からの発露ではあったが、その逆説的視点を超えて、時間を透徹する建築空間の固有性を希求し続ける篠原の創作の根幹を終生支える思想となった。
グローバル資本主義が蔓延する現代社会で最も見失われたのは、この射程の長い時間感覚を含んだ建築の思想である。今回の記念展では、この見失われた思想を、生涯をかけて言葉と空間の両輪で刻印し続けた建築家・篠原一男の活動を再考する。
奥山信一