展覧会コンセプト
マンガアーキテクチャ――建築家の不在
90年代の終わりに大学院を休学してMVRDV*1という設計事務所で働きはじめたとき、彼らがつくる模型がOMA*2の模型と似すぎていて驚いたのだが、のちにそれは同じ模型屋の仕事と知り、二度驚いた。模型をつくることが建築家の仕事ではなくなっていることにも、はたまた違う建築家同士が模型のテイストを共有しうることにも驚いたのである。
もはや模型は、建築家を表現するものとは言い切れなくなった。自らの手で図面を引く建築家も今では稀だろう。建築家の作家性というときの「作家性」とはいったい何なのだろうか?
そこでTOTOギャラリー・間での展覧会という、まさに作家の自己表現が問われる舞台で、あえて作家性を消してみることにした。今回注目したのは、模型でも図面でもなく「漫画」というメディアだ。僕が設計した7つのプロジェクトをとりあげ、7人の漫画家に依頼してそれぞれ建築から発想される世界を描いてもらった。
実は僕は2年前に脳出血を発症し、今も後遺症と格闘しているのだが、その病気が治癒する期間とTOTOギャラリー・間の展覧会をつくりあげる期間がぴったり重なってしまったことも、この展示案を後押ししたと言えるだろう。創意を尽くして描かれた漫画が建築家の想像を軽々と超えていくさまを、ぜひとも体験していただきたい。
吉村靖孝
*1 オランダのロッテルダムを拠点とする建築家集団。1991年に設立された。3名のボスが居るが、そのうち2名はOMA出身。
*2 オランダのレム・コールハースらによって1975年に設立された建築設計事務所。