講演会レポート |
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レポーター:乾 久美子 |
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会場には人、人、人。年齢も立場もバラバラに見える人々が集まっている。しかし、皆、一様に、期待感にあふれた表情をしている。最初から、会場全体が十分にあたたまっているという感じ。それに反応したかのように隈さんは最初からアクセル全開。めくるめくように展開する話に聴き入っていたら、1時間30分はあっという間にすぎてしまった。開催されたのは有楽町のよみうりホールで、村野藤吾による空間は健在。反響板が布のように完璧な曲線を描きながらうねる姿が印象的だった。有機的デザインの古典の一つともいえる空間は、「Studies in Organic」というタイトルにおあつらえ向き。そのことに対する喜びの言葉から講演会はスタートした。
まず村野建築に特徴的な、外壁の最下部のディテールについて、隈さんなりの考えが披露された。地面へとなめらかに連続していくあの端部処理は「環境に建築を溶かす繊細な操作」だという。なるほど。言葉の数が少なく、個人的な思いに閉じ込められているとも考えられる村野藤吾の建築ですら、隈さんの思考を通すと見事に社会へ開かれたアイデアへと変化する。忘れ去っていたり、あまり現代的ではないなどと思い込んでいたりするような物事を収集し、<いま>へ接続させていく名人とでも言えばいいのか。そうした態度はトークだけではなく、隈さんの作品全般にも見て取れる。いや、隈さんの作業を<十八番>だと言いたいわけではない。もちろん芸域という言葉がぴったりなほどの完成度を誇る作品もあるけれど、しかし根底にあるアイデアは時に青臭いほど若く(失礼)、失敗を恐れないような気概にあふれた作品のほうが圧倒的に多い。それらが見る者の気持ちを開放的にさせる。
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よみうりホール内部 |
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