The Best of Graduation Works 2007 in NIPPON
2007 8.22-2005 8.31
展覧会レポート
クールな決闘場の裏にて
レポーター:清水 有
 
せんだいメディアテークが、今も世界中の建築関係者からの熱列な視線と支持を受けていることは、我われ職員たちにとってうれしい驚きですが、それ以上のうれしさは、この建築が今の大学生たちからも信頼と栄誉を勝ち得ているという事実です。毎年、学校が長期休暇に入る時期。メディアテークの天井から床面の隅々までにカメラを向け、スケッチブックを開き、メモを取り、満足そうな顔をして、館内を一日中散策する学生の姿を目にすることは珍しいことではありません。

このようなうれしい姿をもっとも多く見かけるのが、「卒業設計日本一決定戦」の3月の審査会の頃と言えます。この時期、「建築甲子園」と呼ぶにふさわしいメディアテークの館内は騒然としています。特に審査会の早朝には館の周囲を十重二十重に参加者の列が囲み、開館と同時にメディアテーク南面のエレベーターは学生たちの昇降であふれます。館内は全国のいろいろな方言が飛び交い、自分の作品、友人の作品、展示空間、システムなど、思い思いのたけを自分たちの言葉で話している姿が印象的です。そして午後の審査会。いざ鎌倉と馳せ参じる鎌倉武士のごとく、学生たちは会場を埋めつくし、審査員の一挙手一投足にまで目を配り、審査の様子を固唾を飲んで見守ります。今年はついに700人を越える応募(登録)があり、出品した学生のみならず、その家族や協賛いただいた会社の方々、たまたま図書館へ本を返しにやってきたついでに足を止める市民の方々までも巻き込みながら一日館内は建築一色に染まりました。これは既にアマチュア(学生)によるイベントとしての域を超え、建築やデザインに携わる、多勢の人びとの注目を一身に集めている証明と言えるでしょう。
第1会場
第1展示室パノラマ画像
第2会場
第2展示室パノラマ画像
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現在のせんだいメディアテークの外観
現在のせんだいメディアテークの外観
参加者がメディアテークの周囲に集まる。審査会の朝
審査会の朝。参加者がメディアテークの周囲に集まる
1階審査会場。審査会の始まりを待つ参加者
1階審査会場。審査会の始まりを待つ参加者
このイベントの誕生は、「仙台建築都市学生会議」(以下学生会議)が発足した2002年に遡ります。学生会議とは仙台を中心に建築を学ぶ学生有志が大学の枠を越えて集い当館を中心に活動する団体です。発足当時の学生会議の代表、北野央(きたの・ひさし)さんは「世界的に有名な建物のメディアテークが僕たちの住んでいる街に出来たことがきっかけです。学生の僕たちでもここなら何か新しいことが出来るんじゃないかと思って。」と語ります。この年彼らが企画した「仙台建築アワード2002」という卒業設計のコンペティションが母型となり、翌年から「卒業設計日本一決定戦@sendai」に発展していきました。既に学生会議とは6年越しになる濃密な関係を築いているわけですが、その間、全国的に見ても同種の団体、同種のイベントがゼロというわけではなかったにもかかわらず、どうして強大なライバルとなり得るものが出てこなかったのでしょう。

それはこの「世界的な建築」と「学生こそが主人公」そして「公開審査」という結び付きによるものでしょう。この明快な三つ巴こそ長期にわたって成長を続けてきた秘密と信ずべきでしょうが、人びとは、明快にして難解という相矛盾する条件を備えた卒業作品が、受賞したりまたあるいは埒外に位置づけられたりする、一種の人生ゲームの縮図にも似た緊張感にも魅了されているのでしょう。
実はオーガナイズしていく我われも同様の緊張感にさらされているのです。それは登録者の増加と作品の巨大化という問題以上に、必ず吹き出す種々の困難が毎年口を開けて待っているということなのです。毎年参加者が表で「天国と地獄」を味わっている最中、裏方には裏方の試練があるものなのです。あちらを補強すればこちらで雨漏り、こちらを増強すればあちらにひび割れと、さながら新人クリエイターの苦悩にも似てしかりなのです。

しかしながら、これらの既に限界的な煩雑さや困難を超えて裏方には裏方の喜びもまた存在するのでしょう。来年もまた当館が従来通りの若者達の血湧きそして肉踊る饗宴の場、クールで、しかし強烈な決闘場であることを願って止みません。

学生会議現場本部。目も回る忙しさに食事をするヒマもない   送られてくる作品のクレート(木箱)群。年々増加し続ける   裏方のスタッフ。作品とリストの照合
学生会議現場本部。目も回る忙しさに食事をするヒマもない   送られてくる作品のクレート(木箱)群。年々増加し続ける   裏方のスタッフ。作品とリストの照合
審査会は順調に進む   審査会は順調に進む   会場を埋め尽くした来場者の前で緊張のプレゼンテーション
最終公開診査   審査会は順調に進む   会場を埋め尽くした来場者の前で緊張のプレゼンテーション
床にすわりこんでプレゼンテーションを聞く   受賞者決定    
床にすわりこんでプレゼンテーションを聞く   受賞者決定

   
       
写真=越後谷 出、清水 有

       


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