The Best of Graduation Works 2006 in NIPPON
2006 8.22-2005 8.31
展覧会レポート
当たり前をぶっ飛ばせ
レポーター:庵原 義隆
 
大学を出てからも時々製図室に足を運んでしまう。つくりかけの模型、アイデアを書き留めた紙の山、何か新しいものが生まれそうな、実験場のような空気が好きなのだ。当たり前などつくらず思うことを素直に表現している作品を見つけるとうれしくなるし、自分の考えたことを一所懸命話してくれる人と出会うとこちらも元気になる。何にもとらわれず自由に物事を考えている、という意味では学生こそが最も面白いことを考えているのではないかと思う。そんな学生の集大成である卒業設計を日本中から集め、一番を選んでみようというのがこの「卒業設計日本一決定戦」なのである。

4年前の第1回、どんな人や作品が集まるのだろうという興味から「決定戦」に参加した。
会場の熱気に驚いたことはもちろん、それに加えて2つの大きな経験をしたことが忘れられない。
ひとつは、大学ではまあまあの評価であり、やろうとしたことがうまくは表現できていなかった僕の作品について、それを断片からでも読み取って面白いと言ってくれる審査員に出会えたことである。本でよく見ていた建築家に自分の考えたことが伝わり自信がついたのを覚えている。
もうひとつは、作品そして審査会がある閉じた世界で収束することなく、その場を訪れた一般の人にも、また新聞や雑誌にも広がっていくのを目の当りにしたことである。何より僕が今仕事をしているのもこの「決定戦」のおかげなのである。自分の作品を評価してくれる人と出会えたことと発表の場が社会とつながっていたこと、これらは大学の中にいたままでは味わえなかったことである。今振り返れば、ただ数多くの学生の作品を受け入れるだけでなくそれらに対して誠実に応えられる深いふところを持った審査会だったのだと思う。
企画・運営をしている「仙台建築都市学生会議」(仙台を中心とした学生有志団体)の努力は並々ならないものだったのだろう。「日本一」という名の元に集まる学生の熱気とそれを受け入れるだけの大きな母体、このバランスのもとに「決定戦」が成り立っていると思うと学生会議の力には頭が下がるばかりである。学生の力が原動力となり、新しい渦をつくったのである。
第1会場
第1展示室パノラマ画像
第2会場
第2展示室パノラマ画像
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第1展示室(3階)
第1展示室(3階)
中庭から見る
中庭から見る
第2展示室(4階)
第2展示室(4階)

写真撮影=藤塚光政

さて、年を重ねるごとに大きくなってきた「決定戦」が東京にもやってきた。今年は輪郭をひと回り大きくし、ギャラリー・間においてもその内容を報告することとなったのである。
3階展示室は今年の上位5作品の模型とパネル、1次通過7作品の紹介に審査員のコメントや決戦当日の写真を交えた内容になっている。上位5作品はあらかじめ与えられたスペースを各自が自由にデザインするというラフな会場構成と、搬入日に皆が地べたに座り込み作成したという展示とがあいまって独特の力強さとなっていた。内容をうまく伝えられる展示になっていたかというと、そうではないものもあったかもしれないが、密度ではこれまでのギャラリー・間の展示に引けを取らないものであった。
4階へ上がると、今年の審査会を大きく映し出したスクリーンを中心に、周りに過去のアーカイブとして、これまで参加した作品のポートフォリオ(連絡がついた人のもののみ展示)、さらに小さなモニターで過去3回の参加作品のインデックスや審査会場の映像が見られるようになっている。
なんといっても「決定戦」最大の見所は審査会である。異なるテーマ同士の作品に優劣を付けるのだからその場のほんのちょっとしたことが印象を決定的にしてしまう。自分を信じて一生懸命説明する学生と、それに応じるように真剣に思考をめぐらす審査員とのスリリングな展開は見所十分で、その中から生み出された結論には今年も考えさせられてしまった。(審査会の内容については『卒業設計日本一決定戦 オフィシャルブック』(発行=建築資料研究社)に詳しく掲載されている)
帰りに3階へ戻ると、審査会で見た人の個性や審査員の意見などを思い出し、また異なった視点で作品を見ることが出来るのである。
久しぶりに「決定戦」を見て、規模が大きくなっているのを実感したと同時に、自分らしく取り組んだ作品が今年も多く選ばれているのを見ていい刺激を感じた。多くの学生が来場し、真剣に作品を見ていたのが印象的だったがこれから卒業設計をする人にはより高い目標が設定できただろうと思わせる展覧会であった。

毎年、これだけ多くのアイデアを持った人が出てきているのに身の回りにいい建物が増えていかないのはなぜだろう。世の人が建物に興味が無いあまりに起きてしまっている最近の問題は悲しい限りである。建築に興味を持っている人が街に少しでも増えたとしたら、
いい建物がひとつでも多く建つのかもしれない。
この「決定戦」がせんだいメディアテークという公共の建物で開催されることに大きな可能性を感じる。これだけ内容の濃い建築のイベントが、図書館やギャラリーに来た一般の人にも開かれているのである。「学生だから」というのではなく「学生だからこそ」できることもあるだろう。建築が社会にもっと認知される土壌をつくることだって出来るはずである。
そんな「決定戦」に今後も関わる全ての人に期待を込めて、「当たり前をぶっ飛ばせ」。

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