補遺 5つのキーワードについての覚え書き
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1.FRAGMENTS<フラグメンツ=断片> |
Edge of A CityシリーズのひとつSPATIAL RETAINING BARS(1989)は、アリゾナの都市フェニックスの無秩序なスプロールをコントロールし、都市に近接した砂漠を保全するためのプロジェクトである。かつてこの地に住んだホホカム・インディアンの作った用水路の幅と同じ30フィート角の断面をもった「空間保全棒」が折れ曲がりながら180フィートの立方体のフレームを形成し、それを都市の周縁(エッジ)に並べる。一つ一つが空間(風景)を切り取るフレームであると同時に、それらが並ぶことで、都市をもフレーミングする。ホールは、巨視的な都市計画を、実体験をともなう空間へとブレイクダウンしようとする(講演では細分化、隙間、セミオートマ化という言葉が用いられていた)。前述の都市的ポロシティとつながる概念。
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2.POROSITY<ポロシティ=孔> |
本文参照
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3.INSERTIONS<インサーションズ=挿入> |
プラット・インスティチュート ヒギンズ・ホールは、既存の歴史的建造物の間に挿入されている。北棟と南棟の床面は階高が違うので、そのままではどこかでそのギャップを解消する必要がある。ホールは、北棟と南棟の床面をそのまま新棟の中央まで引っ張り、そのギャップを顕在化させる。「不協和音のゾーン」と呼ぶその空間は、トップライトを通した南と北からの光によって照らされる。セイル・ハイブリッドのプロジェクトでは、既存のカジノと、その中に保存されたマグリットの壁画を生かしながら、その上にランドマーク的な薄い帆のようなホテル・アパート棟が軽やかに立ち上がり、それらと既存の都市を結びつける多孔の橋としての会議場棟が付加される。Edge of A Cityもそうであったが、ホールは、新と旧、都市と自然といったギャップの隙間に異質な要素(都市的ポロシティ?)を挿入(介入)することで、ギャップを解消するよりもむしろ際だたせようとする。それは、そのギャップ間の境界を乗り越えようとする(あるいは保存しようとする)手法のひとつだといえるだろう。
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4.PRECINCTS<プリシンクト=周辺> |
これは、5つのキーワードのなかで最も解釈が難しい項目である。訳語としては、(教会・寺院・公共物などの)境内、構内/周辺、付近、郊外/(警察行政・選挙などの)区域/(都市計画による)専用区域などとなっている。聖イグナティウス礼拝堂の内部空間は、光のヴォリュームによってイエズス会カトリック教の礼拝次第に対応した各部分に分節されている。ホールが「光の瓶」と呼ぶそれは、スケッチにおいてはラ・トゥーレット修道院の光の大砲(canons ? lumi?re)を思わせるが、実際の断面はアアルトのヴォクセニンスカの教会に近い。平面では一つの空間であるが屋根の形状と光の状態によっていくつかの空間に分節されている。光のヴォリュームによる分節は、他にもキアズマ現代美術館の展示空間などにおいて特徴的に見られる手法である。光による内部の分節と同時に、外部に対しては、建築のもつ特徴的な形状や位置、テクスチャー、あるいは夜間に内部から発生する光(ルミノシティ)が、周囲の空間をも分節する(講演会では、地域に分けると表現していた)。これはアーバンフレームという呼び方もされているが、建築が周辺環境をある程度規定するということであろうか。これも都市的ポロシティの考え方に通じていると考えられる。
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5.FUSION<フュージョン=融合> |
これは文字通り、内部と外部、建築と都市、建築・都市と自然・景観、などの融合を指すであろう。前述したように、ポロシティという概念はこのキーワードと密接に関わっているが、ホールは、異なる局面の境界面を際だたせることを手法の一つにしている(cf. Edge of A City , プラット・インスティチュート ヒギンズ・ホール)。彼がさまざまな境界面に大きな関心をはらっていることは作品や発言から容易にみてとれるが、なかでも昨年コンペで勝利したサーフ・オーシャン文化センターは、その界面がデザインモチーフとなっている。"Under The Sky"/" Under The Sea "というフレーズをもとに、波やスノーボードのハーフパイプを思わせる凹状の境界面をつくり、上は広場として(空の下)、下は海の下のメタファーとして映像などの展示空間となっている。こうしてみると、ホールのいう融合とは、建築的手法のレベルにおいては、異なる局面の間に特徴的な境界面(皮膜)やフレームを挿入し、様々なフェーズにおけるポロシティ(孔)をあけることで、その間の光・空気・視線・アクティビティなどの交通をはかることを意味していると、とりあえず仮定できるのではないだろうか。
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