Contemporary Japanese Houses, 1985-2005
2005 12.8-2006 2.25
台北展
 
1/30模型展示。5つの島で構成される。迷路のように島の内外を行ったり来たりできる。
   
1/100模型展示。コの字型に建てられた壁面に、年代順に埋め込まれる。
山本理顕氏講演会風景。講演後には、サイン会も開催。
台北展レポート

レポーター=早川紀朱

ギャラリー・間で2005年12月8日から2006年2月25日まで開催した「日本の現代住宅 1985-2005」が、まだ会期途中の頃、台湾からこの展覧会を招致したいという申し出があると聞いてギャラリー・間に出向いたのは1月半ばのことだった。招致するのは台湾のTOTOで、打合せには台湾TOTOの社長、台湾インテリア設計協会の王明山理事長と台湾インテリア設計装修商業同業公会全国総合会の阮漢理事長が同席していた。台湾では建築家を建築師、インテリアデザイナーを設計師と表記し、二人は後者に当たる。この展覧会の巡回は台湾TOTOのCSR(社会貢献)活動の一環として企画され、台北と高雄の2都市で開催することが予定されていた。二人は、どのような形でこの東京の展覧会を台湾に持ち込むことができるかを確認するために来日していた。

この展覧会は、私が会場構成のデザインに関わったとき既に国内7〜8箇所の地方大学を巡回することが予定されていたが、国内の会場はいずれも小規模で、ギャラリー・間での会場構成のまま巡回することはできない状況であった。例えばギャラリー・間での会場構成の中で特徴的だった展示に、1/30の断面模型を天井から吊ったパネルにはめこんだものがある。当時、これなどは巡回展ではパネルから外して模型部分だけを展示するという方針になっていて、パネルはもったいないけれども、お蔵入りになる予定だった。
ところが、二人の設計師はこの部分の展示もそのまま持ち込みたいと感じたらしく、そのレイアウトと設置方法についてを検討するという方向に発展して行く。続いて、その他の展示部分については、台湾の若手設計師である王玉麟氏が担当することが決まった。

早速2月には、台北、高雄の会場視察と、台湾TOTO本社での打合せに私も参加することになっていた。寄り道になるが、台湾TOTO本社ショールームの陶器の品揃えは日本のカタログに出ているものとは少し異なっている。なんというかデザイン重視という感じなのである。聞けば台湾TOTOでデザインしている台湾オリジナル商品とのこと。日本で売れ筋のウォシュレットなどはあまり人気がないということで、スタイリッシュで豪華な感じのデザインが受けるということであった。この辺りの国民性の違いはとてもおもしろく、「豪華な感じ」という点は展覧会の会場構成にも求められた。東京での展示は真っ白で地味だという印象を抱いたようで、台湾では少し「豪華な感じ」にしたいということだった。しかし、突然豪華なデザインがいいと言われても台湾的豪華のイメージをいきなりは捕らえ難い。ここは王玉麟さんに一任するということになった。
台北では、いくつかの展覧会場候補を見て回った後、最終的に台湾の最大手の書店である誠品書店本店の最上階にあるギャラリーを使用することになった。書店といっても台湾の新CBD(商務中心区)に立地するこの建物の規模や売り場は日本のデパートといった趣で、日本の書籍専門のコーナーも品揃えが充実しており、台湾の人たちの日本に対する関心の高さに驚いた。再び寄り道になるが、実はこの建物、統一グループ台北本社ビルの設計は丹下健三・都市・建築研究所(1998)によるもので、インテリアは台湾の設計師による。このように台湾では建築設計業務はスケルトン&インフィルにはっきりと分かれている。役割がはっきりとしていて、需要も大きいのでインテリアデザインに対する関心が高く、職業としてはむしろ建築師よりも人気があるということだった。日本とは状況が異なるだろうか。
続いて高雄を訪問し、既に展覧会場として決定している樹徳科技大学へ向かった。いくつか候補会場の説明を受けたが、展示品の保護などを考えた結果、会場は講堂前のホワイエのようなところに決まった。

台北展開催の数日前から、展示品は東京展の施工を行った日本の業者、海外運輸の専用部隊、そして台湾の施工業者によって慎重に設置された。最も大変だったと思われるのは繊細な模型の梱包、運搬と再設営のコントロールである。ここに至るまで、いかに効率的に、しかも間違えることなく大量の模型を東京で解体、梱包し、台湾へ運搬、そして設置するか。綿密な打合せが繰り返し行われたようであった。
王玉麟さんの1/100模型の展示では、両側に壁を立て、床に年号シールが貼られた一筆書きの展示ルートが伸びやかに設けられ、壁の中に模型の入ったアクリルケースが住宅の年代順に並べられた。このルートに沿って最初は現場でテント屋根が設けられたが、設置してからこれは良くないと思い直したのか、あっという間にテントを撤去してなかったことにしてしまった。また、王玉麟さんの展示会場のデザインには意表を付くような仕掛けが随所に見られた。例えば砂利や、乾燥樹木など、展示会場をお祭り会場にあっという間に変えてしまうような遊びに溢れたアイテムが加えられたりするのである。こうしたアイテムは開催前夜、しかも深夜近くに全て運び込まれて来ていて、数時間で展示会場の様子が見るみる変わって行く。何十人という職人さんにテキパキと指示を出す王玉麟さんのダイナミズムをあっけに取られながら眺めていると、出来上がった空間はなるほど「豪華」だ。これは、作業の時間配分や、その効果など、今後のためにとても参考になった。

台北への展覧会巡回はとても盛況に幕開けし、盛況に終了した。高雄も同様と聞いた。実際には住宅かどうかはさておき、最近の日本建築の動向はどんなものなのだろうかということで受け止められたようだ。台湾でも安藤忠雄やSANAA、伊東豊雄を始め、日本のスター建築家はやはりスターだった。今回の展覧会は住宅だけを扱っているが、日本のスター建築家が網羅されている。さらに最新の若手の作品も交えて住宅という同じ土俵での戦いを提示したこの展覧会は、住宅のみを扱っていたがゆえに、逆に近年の日本の建築界を分かりやすく紹介することになったのではないだろうか。また巡回展とともに、台北では山本理顕による講演会「Systems Structure」が開催され、大勢の聴講者を迎えて好評を博した。
ベテラン、若手を問わず、多くの建築家が住宅という小品に真剣に取り組んでいる様子は、台湾の建築やインテリア志望学生に何がしかの影響を与えたと思いたい。今後台湾から発信される建築、インテリアの情報からも目が離せないと思っている。
高雄展
1/30模型展示
1/100模型展示
座談会の様子
高雄展レポート

レポーター=赤松佳珠子

5月だというのに既に真夏の空気。そんな台湾・高雄市で「日本の現代住宅 1985-2005」の巡回展及びシンポジウムは行われた。先に行われた台北市での巡回展は、今最も話題のスポットである誠品書店信義旗艦店にて行われ、東京のギャラリー・間を上回る入場者数を記録したと聞きながら、私はこのシンポジウムに参加するために高雄の樹徳科技大学を訪れた。広大な敷地に豊かな緑が広がる。大学としては恵まれた環境のキャンパスではあるが、高雄市内から車で30〜40分と少しばかり遠い。「日本の現代住宅」という、台湾の人達にとって、ある意味かなりマニアックな内容であると思われる展覧会会場の立地としては、少しばかり不安な第一印象からのスタートだった。

展覧会の展示スペースとして、シンポジウムが行われるレクチャーホールのホワイエ部分が使われていた。この巡回展のために新たに計画された会場構成がギャラリー空間を生み出し、住宅の模型一つひとつが、その存在感をはっきりと示していた。会場に一歩足を踏み入れた瞬間から、眼前に広がる膨大な住宅模型の数に圧倒される。我に返り、数ある模型の中からひとつに目をやると、今度はその中に広がる空間に圧倒される。数の密度と質の密度が作り出す空気感と、この展覧会に携わるボランティアの学生達や関係者の多さとから、最初の不安は次第に期待感に変わっていった。

今回のシンポジウム「21世紀の住宅論」は、パネリストとして台湾側と日本側から建築家各3名ずつ、そして、コーディネーター及び司会進行役として、台湾出身の謝宗哲氏(現在東京大学生産技術研究所 曲渕研究室博士課程在籍中)が参加した。前半に各パネリストのスライドプレゼンテーション、後半にディスカッションが行われた。

台湾側は、謝氏の言葉を借りて言えば、新世代の建築にもっとも関心を示している洪育成氏、建築設計と建築理論を専門とする曾成徳氏、そして台湾の建築界において注目を浴びている新星の劉國滄氏の3名である。
洪育成氏は、未来の生活様式に対応できる空間として、今の住居における空間の名前を捉えなおすべきであることや、未来の建築は物としての建築というだけではなく、詩的な構築でなければならないと語った。曾成徳氏は、type(建築類型)/topo(空間の場所、本質、あるべき姿など)/typo(type+topo=typo:曖昧、混乱の状況)の3つのキーワードを用いながら、台湾の都市風景を語り、台湾の住宅建築を読み解く方法を取り上げた。劉國滄氏は、<時間的建築/TIMESCAPE>をテーマとし、自らの作品を通して、建築の中に潜む時間感が建築における重要な手がかりであるとの考えを示した。

日本側は、藤本壮介氏、西沢立衛氏、赤松佳珠子(筆者)である。日本側の建築家は3名とも自らのプロジェクトを紹介しながら各自の設計に対する考え方を語った。

その後のディスカッションや会場からの質疑などでは、日本で建築家が関わる住宅建築がこれだけ数多く成立している背景に関する興味や、どの様にして建築家として施主に対しているのか、単刀直入に言えば、どの様にして建築家がつくりたい空間を施主に納得させているのか、といった台湾建築家が置かれている状況がこちらにも伝わってくるような話題が多く出た。

台湾における建築事情として、住宅は集合住宅の割合が日本よりはるかに高く、その上、建築本体は建築家、内装仕上げはインテリアデザイナーという線引きがはっきりとしている。そのため、一人の建築家が竣工の最後まで関われるケースは非常に少なく、住宅設計のプロジェクトで建築家が建築家として空間に取り組む機会はほとんどない。そういった社会的な状況の中でも彼らは住宅建築への可能性を見つめ続けている。日本のように、一般の人々が建築家に家を建ててもらう、建築家が一般住宅をひとつの建築作品として世に出す、というような幸せな関係を築いている社会は世界でも類をみない。今回意見を交わした台湾の若い建築家たちが、それをうらやむ気持ちがひしひしと伝わってきた。

我々日本人にとってこの展覧会は、自分が過ごしてきた時間を遡りながら、自分の中に既に存在し、影響を受け続けているであろう作品群と改めて対峙する機会であったといえる。しかし、近年でこそ日本の情報がリアルタイムに入っているとはいえ、台湾の人たちにとっては、ほとんどが初めて見る作品に違いない。この20年、日本が辿ってきた社会的状況や建築家の言説など、これらの作品が持つ背景をそれほど知らない人たちの前にいきなり現われた住宅作品の数々。台湾の建築家にとって、この120余りの住宅建築はどのようなメッセージとなりうるのか。20年の時間との関係から浮き上がってくるもの、形態やプログラムの新しさが訴えかけるもの。彼らなりの解釈で新たに読み取られていくものの行方は大変興味深い。

シンポジウムには学生から年配の建築家、メディア関係者まで、男女を問わず、実に幅広い年齢層の人たちが多く集まっていた。ホワイエを埋め尽くす模型の数に負けないくらい多くの人々が、模型を見つめている。彼らの真剣なまなざしを見ながら、ギャラリー・間20年の歴史における初めての海外巡回展が「日本の現代住宅」展であり、台湾という国で行われたことの意味の大きさを改めて感じた2日間であった。




台北展:日本の現代住宅1985-2005精選
会期 2006年5月13日(土) 〜 5月21日(日)
会場 誠品書店信義旗艦店6F展示場
The eslite bookstore6F, 196, Sungde Rd., Taipei, TAIWAN 110

開館時間 11:00〜22:00 会期中無休
入場料 無料
 
講演会:「Systems Structure」
日時 2006年5月13日(土) 開場13:30、開演14:00
会場 中国石油ホール(Sun-jen Rd., Taipei, TAIWAN)
講師 山本理顕
参加方法 協賛団体を通じた申し込み要/定員800名/受講料無料


 
高雄展:日本の現代住宅1985-2005精選
会期 2006年5月27日(土) 〜 6月 4日(日)
会場 樹徳科技大学大ホール前ホワイエスペース
SHU-TE UNIVERSITY
59 Hun Shan Rd., Yen Chau, Kaohsiung County, TAIWAN 82445 R.O.C.

開館時間 11:00〜19:00 会期中無休
入場料 無料
 
シンポジウム: 21世紀の住宅論
日時 2006年5月27日(土) 開場13:30、開演14:00
会場 樹徳科技大学大ホール
(59 Hun Shan Rd., Yen Chau, Kaohsiung County, TAIWAN 82445 R.O.C.)

パネリスト 台湾側パネリスト=洪育成曾成徳劉國滄
日本側パネリスト=赤松佳珠子西沢立衛藤本壮介

司会 謝宗哲
参加方法 協賛団体を通じた申し込み要/定員400名/受講料無料
※プログラムはやむを得ない事情により変更することがあります。予めご了承ください。


 
監修 小嶋一浩/千葉 学
企画協力 石堂 威/小巻 哲/淵上正幸
企画 ギャラリー・間運営委員会 (安藤忠雄/川上元美/黒川雅之/杉本貴志)
主催 中華民国建築師公会全国連合会、中華民国室内設計装修商業同業公会全国連合会、
中華民国室内設計協会、台湾TOTO

後援 内政部、台北市政府、高雄市政府
協力 樹徳科技大学
会場構成 CSID(王玉麟)+HYKW(早川紀朱)
模型監修 中央アーキ(上領大祐、木ノ下裕、坂下加代子、松本悠介)
特別協力 ギャラリー・間
協賛 台湾TOTO/TOTO
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