GALLERY・MA
Home
ギャラリー・間について About GALLERY・MA
ギャラリー・間 関連書籍 GALLERY・MA books
com-etメルマガ登録 mail magazine
TOTO出版
  COM-ET
  TOTO
CONTACT US
ACCESS
小泉誠展 KuRaSiGoTo
Makoto Koizumi  KuRaSiGoTo
2005 9.15-2005 11.12
         
小泉誠講演会「と/to」レポート  
   
レポーター:内田みえ  
さまざまな「暮らしの道具」をつくってきた小泉誠さん。今回の展覧会「KuRaSiGo To」は、小泉さんのこれまでの仕事の集大成であるとともに、新たなスタート=小泉流建築手法の表明である、と確信させた講演会だった。といってもいわゆるレクチャーというものではなく、小泉さんが初めてゼロから手掛けた一軒の家づくりを、施主との出会いからプロセス、ディテールまで、写真、図面を交えて紹介してゆくという内容であった。しかし、その仕事振りにこそ小泉デザインのエッセンスが凝縮されており、小泉流の建築をしっかりと感じさせるものだった。

ひとつの家の仕事から
この住宅の施主との出会いは、小泉さんがインテリアを手掛けたギャラリー・ショップだった。その空間を見て、施主はマンションリフォームを依頼した。施主はCM製作に携わる共働きのご夫婦とネコ。リフォームが完成してから半年後、なんとその施主から「いい土地を見つけたんだけど、見てくれる?」と電話があったという。リフォームの過程での小泉さんとの会話、そして出来た空間での暮らしで、施主は「心地いい暮らし」に目覚め、もっともっと心地よく暮らしたいという気持ちでいっぱいになり、とうとう土地まで探してしまったのだ。空間デザインが生活を、さらに人生までも変えてしまった。そこには信頼という人間同士の関係もある。まさにデザイナー冥利に尽きる、というものだろう。

講演会会場風景
敷地は、鎌倉にある旗竿式の土地。川に面した鎌倉らしい風情のある場所だ。しかし、それが大きな問題もはらんでいた。そこは大きな敷地を4つに分筆したうちの一画で、これまで敷地全体で吸収していた雨水がこの敷地の一カ所に溜まってしまい、土地が崩れてしまうんじゃないかという危機に陥ってしまった。そこで小泉さんは、スタッフ、施主と土嚢を積み、パイプで水を逃がす工夫をした。ところがその努力もむなしく、パイプはあっという間に詰まってしまったという。そして、とうとう台風による大雨で土地が崩れてしまう……。そんなアクシデントに見舞われながらも、3年以上かかって今年の始めに無事完成となったこの住宅は、「Yawn(あくび) House」とネーミングされた。「こういう風にしたら気持ちいいだろうなあ」という小泉さん自身の感覚・体験を素直に描いたプランを施主は見て、「あくび庵という名前をつけたい」と言ったという。家中どこでも気持がよくて、どこでものびのびあくびのできそうな家だから……、と。

そのプランをざっと説明しよう。1階は、玄関から勝手口まで家の中央を少々斜めに振られた廊下が貫く。杉のパネルでつくられたその空間は、まるでトンネルのよう。廊下の左側に収納やトイレ、バスなどのユーティリティがまとめられ、右側にキッチン、リビング・ダイニングがある。吹抜けのリビングからは川に向かって広いデッキが張り出す。リビングには床を1段高くとった畳スペースがあり、そこに大きなテーブルが掛けられているのだが、そのテーブルはデッキへ伸ばしたり、畳スペース側に引き込んだりできる。生活のシーンに合わせて、さまざまな空間の使い方ができるようになっているところはさすがだ。2階にはワークスペースと寝室、将来の子ども部屋。普通に見える間取りだが、窓の取り方が絶妙で、例えばベッドに横たわったときにも、吹抜け、ワークスペースを通して窓から川岸の風景が見える。小泉さんらしい心配りだ。また、屋根の上の一部分にデッキを張って、空を堪能できるスペースも設けている。

さて、次はディテールの話へ。と、すかさず色分けされた手描きの図面が登場した。「図面は現場の職人さんへこちらの思いや意図を伝えるためのコミュニケーション手段」という小泉さん。しかし、その図面は建築の図面とは思えない、おそろしく詳細なものだ。細かい納まりはまるでプロダクトや家具の図面である。引き戸、建具、廊下の床に仕込んだ照明などなど、どれも2〜3mmの世界で描かれている。「現場はホントに大変だったと思いますよ。よくやってくれました」と小泉さん。素人ながら、その大変さは察しがつく。しかし、その細部へのこだわりがあるからこそ、手触りはもちろん空間全体に漂う心地よさが出せるのだ。

そのこだわりの真骨頂は、木部の面取りだ。通常、大工仕事での面取りといえば、カンナで角を1面さっとなぞるだけ。でも、それでは手触りのいいアール面にはならない。そこで小泉さんは家具の製作で指定する2Rを、階段回りなど木部の仕上げに要求した。しかし、当然、大工仕事にそれを期待するのは難しい。いや、ムリといってもいいだろう。そこからが小泉さんのすごいところで、なんと面取り用のトリマーという機械に2Rの歯をつくって、それを現場に支給したという。この家は家具並みの精度でつくられていると言っても過言ではない。

家具デザイナーとして
本展を機に、家具デザイナー宣言をした小泉さん。講演の最後に、その話に及んだ。「20歳から家具デザイナーを目指してきたけど、家具とは単体の家具だけじゃなくて、<建築=家自体が人が住む道具(家具)>なんだと30歳のときに思いました。そして、そのときの自分はまだ家具デザイナーだなんて言えないな、と。それから40代で建築をやろうと目指してきて、やっとこの家ができて、箸置きから家一軒までやれる一人前の
家具デザイナーになれたかなと思っています」。そして、会場からの「大きな建築はやりたくないですか?」という質問に、きっぱりと「やりたくないです」と答えた小泉さん。「顔の見えるモノをつくっていきたいし、僕の器としては、あの図面の描けるキャパは住宅が精一杯。今のところは、自分でやれる範囲でやっていきたいので」という。建築を暮らしの道具として捉え、生活道具のデザインと同様に建築を生み出していく小泉さんの手法は、建築とはそもそもなんであるのかを改めて現代に投げかける意義深いものでもあると感じたのだった。

日時
  2005年10月28日(金)18:00開場、18:30開演
会場
  建築会館ホール
東京都港区芝5−26−20

アクセス
JR田町駅三田口、都営地下鉄浅草線・三田線「三田」駅A3番出口 徒歩3分
参加方法
  当日会場先着順受付
参加費
  無料
GALLERY・MA TOTO出版 COM-ET TOTO
Copyright(C)2003 TOTO LTD.All Right Reserved