さまざまな「暮らしの道具」をつくってきた小泉誠さん。今回の展覧会「KuRaSiGo To」は、小泉さんのこれまでの仕事の集大成であるとともに、新たなスタート=小泉流建築手法の表明である、と確信させた講演会だった。といってもいわゆるレクチャーというものではなく、小泉さんが初めてゼロから手掛けた一軒の家づくりを、施主との出会いからプロセス、ディテールまで、写真、図面を交えて紹介してゆくという内容であった。しかし、その仕事振りにこそ小泉デザインのエッセンスが凝縮されており、小泉流の建築をしっかりと感じさせるものだった。
ひとつの家の仕事から
この住宅の施主との出会いは、小泉さんがインテリアを手掛けたギャラリー・ショップだった。その空間を見て、施主はマンションリフォームを依頼した。施主はCM製作に携わる共働きのご夫婦とネコ。リフォームが完成してから半年後、なんとその施主から「いい土地を見つけたんだけど、見てくれる?」と電話があったという。リフォームの過程での小泉さんとの会話、そして出来た空間での暮らしで、施主は「心地いい暮らし」に目覚め、もっともっと心地よく暮らしたいという気持ちでいっぱいになり、とうとう土地まで探してしまったのだ。空間デザインが生活を、さらに人生までも変えてしまった。そこには信頼という人間同士の関係もある。まさにデザイナー冥利に尽きる、というものだろう。
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