例えば、レム・クールハース率いるOMAの初期ドローイングや、ザハ・ハディドの形態のつくり方は、明らかにその影響を受けている。彼等は1980年代には「デ・コンストラクティヴィスト(脱構築主義者)」と呼ばれ、それまでの機能主義やモダニズムに対する再解釈として、斬新な形態やプログラムを提案して、閉塞していた現代建築に風穴を開けようとしたのである。その時の手法として、ロシア・アヴァンギャルドが格好のネタであったことは、単にデザイン的な斬新さに惹かれたというより、新しい世界を築き上げようという精神に可能性を見い出してのことだと言うことができる。そういうロシア・アヴァンギャルド建築家達の中でも、メーリニコフは異彩を放っていた。
メーリニコフを敢えて、前時代的な芸術家肌の夢想派建築家と言ってしまおう。それほど彼の建築および言説は、同じアヴァンギャルド建築家の中でも独善的であり、孤高としていて、さらに魅力的である。それをこの展覧会で知ることになる。
会場は、通常の日本人建築家の個展と比較して明らかに趣が違う。赤をふんだんに用いたグラフィカルな構成は、まさにロシア・アヴァンギャルドを象徴している。そして、各ブースを立体的に仕切る仕掛けは鋭角な三角形を基本単位として宙に浮き、危なげな緊張感を醸し出している。各ブースの模型台は回転するものもあり、これまた動く建築を多用したメーリニコフを彷佛とさせる。
第一展示室にはメーリニコフ自邸をはじめ、彼の代表的なビルディング・タイプである「労働者クラブ」や「ガレージ」などの実現案が展示されている(「パリのガレージ」のみプロジェクト)。中庭展示室には、「パリ現代装飾美術・産業美術万国博覧会ソヴィエト館」をモチーフにつくられたインスタレーションが置かれている。第二展示室は、メーリニコフの夢想家ぶりが遺憾なく発揮された「グリーンシティ」プロジェクトを中心に、その他のプロジェクトが展示されている。加えて、ビデオ展示として実の息子やメーリニコフの研究者のインタビューが上映されている。
展示構成自体がロシア人建築家のリシャット・ムラギルディン氏によって監修されたということで、やはり感覚的に何かが違っている。チープに見えなくもないが、表現のためにある種手段を選ばないという方法は、まさにロシア・アヴァンギャルドの精神に通じるところがあるのかもしれない。
また、そもそもロシア・アヴァンギャルドの建築は、二次元におけるグラフィカルな表現が特徴的であると言えるが、残存する(もとから無いのかもしれないが)数少ない資料からこれだけ精密な模型を制作するのは並々ならぬ苦労があったに違いない。グラフィカルなイメージに慣れているメーリニコフの作品を、三次元で見ることができるだけでも一見に値する。 |