特集3/独学の建築家

技術の根源へ

——根源的なものに興味があるそうですね。

森田 技術が生まれてきたところを見てみたいのです。たとえば京都の聚楽壁が生まれる前はどんな土壁だったのか。どんな理由で生まれたのか。それを知らないことには、土壁の未来について考えることはできないという気がします。
 左官修行の最初に、土となじみをよくするために藁を叩いてやわらかくする作業をしました。そのとき、チベットのおばちゃんが道端でやっていたのはこれだったんだなあと感激したんです。京都の伝統と世界とは根っこのところでつながっている。

——モロッコのタデラクトという漆喰も根源的な技術につながっていると書かれています。

森田 はい。自分が興味をもっている技術のひとつに、「漆喰磨き」があります。モロッコに行ったとき、道端の職人さんが壺に塗っていた漆喰がピカピカに光っていた。しかも彼らは鏝ではなく丸みのある石を使って漆喰を磨いていたのです。これを見て、左官鏝の起源は石なのではないかと思い至りました。日本の土壁技術は平らな壁を塗ることに特化していて曲面を仕上げるのは苦手ですが、石の鏝ならどんな曲面にも対応できます。根源的あるいは原始的な技術を見ると、ものの原理がよく分かります。
 ここ「御所西の町家」の土間では、コンクリートでも石灰を混ぜた伝統的な三和土でもなく、土を固めただけの最も原始的な土間工法を採用しました。

——カタラン・ボールトという技術についても調べられていますね。

森田 日本の左官技術が壁のテクスチャー表現だけにとどまるのでなく、それ自身が構造として自立できないかと考えたのがきっかけです。
「Concrete-pod」(2005)は発泡スチロールの型枠にガラス繊維入りのセメントを塗ってつくった厚みわずか15㎜のドームです。その後ドームの工法について調べていくと、ドロドロの左官材料に形を与えるのは型枠だということに思い至り、まずは型枠の歴史に興味をもったのです。
 ローマ帝国の建築では立派な木製の型枠が使われていますが、中東にいくと型枠自体を使わずに独特の方法でレンガを積んでドームをつくる技術が生まれてくる。それがスペインに伝わったすえに生まれたのが、薄いレンガを型枠を用いずに石膏で固めていくカタラン・ボールトという技術で、ガウディの建築もこれでつくられています。今はこの工法をどうやって現代に生かすか、ということについていろいろな試みをしています。


>> 「Mayu」
>> 「Concrete-pod」
>> 「御所西の町家」(改修)の図面を見る

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