特集2/独学の建築家

今に引き継がれる経験

——そのときのノウハウや感覚は、設計者になった今でも通底しているのでしょうか。

前田 しています。つくり手とのコミュニケーションの大切さはつねに事務所のスタッフにも話していますし、最近の現場でも、各職種の職長や現場監督に集まってもらう定例会議をすることで、手戻りのないよい仕事のための意見交換を必ずするようにしています。設計者と現場監督が話しただけでは、つくる本人の技量や感覚がわかりませんから。本人がいれば、その場で即決ができます。それと、現場監督の頃の経験という意味では、施工図を描いていたときに雨じまいがうまくいっていない部分を見つけて報告したら、設計者に「適当にやっといて」と言われたことがあったのですが、そういう設計者には絶対になりたくない、という反面教師と出会ったこともありました。現場に来ても、足場にも上がらずに下から見るだけで「よし」と言えてしまう設計者にはなるまい、と心に決めましたよ。

——現場監督として働いていた5年間、職人や設計者とのやりとりのほかは、どのような仕事をされていたのでしょう。

前田 積算もやっていました。とりわけ楽しい仕事ではありませんでしたが、この経験も原価や職人の手間賃の考え方を知る機会でしたし、今も抜群に役立っています。もののつくり方に応じた見積りや、安くする方法を考えるのにつながっています。それと、お施主さん対応。竣工した住宅で雨漏りをすると、竣工したときにはとても喜んでいたお施主さんが、人が変わったようにカンカンに怒っていることがありました。ただ、雨は一度漏ってしまうと、屋根裏を見てもどこが原因かはわからない。延々といたちごっこのように修理を続けなくてはなりません。一時は雨が降るたびに施主からの電話が鳴ることがあり、胃が痛くなりました(笑)。結局、建築は長い時間のなかで考える必要があって、竣工したら終わりではない、ということです。雨漏りを直しきることは難しいので、施主とのコミュニケーションが重要だということを学びました。スピーディな対応をして、気持ちでつながることもひとつの解決策です。今でも事務所では、施主から何か問題があったら迅速に対応することを鉄則にしています。とくに地方でやっていると、うわさはすぐに広まりますから、信頼関係が何より重要なんです。


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