特集2/独学の建築家

現場監督の仕事

——現場監督になったときは、建築家へのコンプレックスのようなものがあったのでしょうか。

前田 そうですね。4年生の頃に夢を描いていただけに、落差がありました。ただ実際に現場に入ると、コンプレックスなどといった甘えが許されないきびしい世界でした。中学校の体育館が最初の現場だったのですが、20代の頃に自分の親くらいの年齢の人たちを現場監督として指揮していくわけですから、その難しさに苦しみました。鉄筋屋や左官などのいろいろな職人がいるなか、彼らはそれぞれが1日叩いてなんぼ、という世界で命がけでやっていますから。若くて知識がなくても指示していかなくてはならない難しさを痛感しました。

——なかなか酷な話だと思います。会社では新人でも、現場では監督ですからね。

前田 ええ。しかも現場では、いやな職人とのやりとりは、本当にいやで胃潰瘍にもなったりしました(笑)。童顔なのでなめてかかってくる職人も結構いましたしね。そういう職人に会うと、次に同じ現場になったときのために、共通仕様書や現場での勝手などを理解しながら、その職種のことを徹底的に勉強しました。ただ実際に現場で会って、見返してやろうと話をしても、意外とふつうのやりとりになってしまうんです。

——話が通じるようになったのですね。

前田 自分が成長したということもあるのかもしれませんが、本当にいいものをつくりたいとか、無駄な動きをしたくないといった、建築にとって重要なところを共有できたのだと思います。結局、現場監督は指示する仕事でもあるのですが、つくり手とのコミュニケーションが重要な仕事でした。生涯の仕事としてひとつのことに取り組んでいる職人よりも、現場監督はプラスアルファの知識をもっていなくてはならない、と先輩には言われましたが、まずはくわしい職人に教えてもらうのが一番早いと思って、職人の知識を吸収しようとついてまわるようなこともしましたね。


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