特集/ケーススタディ4

重層する壁

 3つのスペースのうち、南側は3層吹抜けの階段室、北側は水まわりなどの機能がまとめられ、生活はおもに内側の2枚の壁のあいだで営まれることになる。中央の居間は幅が2.4mしかないため、建築家も建主も「廊下のような家」と揶揄するが、むろん本意ではない。というのも、2枚の内壁は空間を完全に分断しているわけではなく、いずれの壁にも穿たれた穴のように大きな開口があけられているからだ。
 たとえば、1階の居間と階段室のあいだには、天井からは荒々しい断面が厚みを感じさせる垂れ壁が下がり、床からは一部、袖壁も立ち上がっている。それ以外はサッシを拒絶する純粋な「開口」としてあいており、心理的には洞窟の入り口のようである。南側の外壁に大きな窓を設けた階段室は光がふんだんに降り注ぎ、半屋外のような趣なのに対し、くり抜いた内壁によって直射光が制御され、ほどよく仕切られた居間には、守られた安息感がある。一方、居間と台所のあいだにも同様の壁がある。上部や左右に穴をあけた壁が、生活感を消しつつ、奥に別の空間があることを意識させる。このように、空気はつながっているにもかかわらず、まったく異質な3つの空間が壁1枚を隔てて隣りあっているのである。
 それゆえ、図面上は一見廊下のような細長い居間であっても、実際に訪問者が身を置くと、両脇の壁の外側までが一体に感じられる半面、自律した空間同士が連続していることをも、無意識のうちに皮膚を通して感じとることができる。明と暗、開放感と包まれた安心感といった両義性や、壁の重層が生む独特の距離感は、単に全体が7m×6mのワンルームであったなら決して備わっていないことは自明である。
 

参考文献・出典
*1/『埋め込まれた建築』1989年、住まいの図書館出版局


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