特集/ケーススタディ2

街とつなげるための操作

幹也 訪れる前に平面図と写真を拝見していたのですが、光のグラデーションの状態を体験できてよかったです。室内に入って最初に感じたのが、街のスケールに近いということです。住宅のスケールから離れて、街に近づいているのかなと。天井高は奥行きの感じ方のなかで話されていましたが、街と連続させる意図でも利用されたのですか。
河内 言われるまで気づきませんでしたが、内と外の連続性をつくりたいというとき、室内にいても外にあるような高さを設定するといいでしょうね。連続性ということでいえば、1階の床面を地面に近づけて、道路からバリアなくつながるようにしています。45㎝など上がっていると、中と外という感覚が出てきますので。それで、室内でもコンクリート基礎の立ち上がりが見えています。
茶織 1階と2階とでは、街とのつながり方が違いますよね。それでも1階と2階でプランが同じなのはどうしてでしょうか。
河内 本当は外から1階、2階へとつながるべきですが、2世帯住宅のそれぞれの世帯は得てして交わらないものなので、連続させたプランは考えませんでした。またコストの問題もあって、それぞれの要望を聞いて対応している余裕がなかったのですね。そこで思い切ってシンプルに単純化し、同じプランにしたのです。
幹也 階高の違いが生まれたのは、光量以外にどのような要因がありますか。
河内 スチールサッシの製作寸法範囲とコストです。天井高を4mにすることは現実的でないことがわかり、上下階を同じ3mにするのか、片方だけでも高くするのかと考えました。実験の意味合いもあり、一方だけでも高くつくりたかったということです。
茶織 街とつながるということは、体験として起こることでもあります。これまでの話では、おもに内側から街に開いていくことだったと思いますが、外から見て開かれた印象にするために、何かされましたか。
河内 表通りから家の反対側の庭が見えるようにすると、近しくなるだろうと考えました。それで、アトリエのスチールサッシのガラスは透明にしました。実際には、人通りが視界に入って作業に集中できないというので、ガラスに半透明のフィルムを張ったのですが。
幹也 建て主の暮らし方も開き方に影響しますが、こちらの建て主は、街に生活しているという意識が強いのでしょうか。
河内 ええ、強いと思います。街なかのカフェでも、知らない人が歩く様子を見ながらお茶を飲むのは楽しいものです。生活を楽しむためにも、街に開いているのはいいことだと思いますし、住宅は街に開くことができる設定にしておく必要があると思います。
幹也 建築側で用意しておかないと、何も始まりませんからね。積極的に開いて仕掛けていくことは大事だと自分も思います。
河内 昔の町家では、パブリックなスペースほど道に近く、プライベートを奥にしていました。今の都市型の住宅では1階が駐車スペースと個室に水まわり、上階にキッチン、リビングという構成で、プライベートとパブリックの配置が逆になっています。これでは、道を歩いていても距離感があって楽しくありません。自分が師事した難波和彦さんが設計する「箱の家」では、1階にキッチンをつくっていました。基本的にワンルームの中で、食事をする客はキッチンやダイニングに招き、上を寝る場所にするという序列でした。
幹也 「HOUSE y」では南北の軸でパブリックからプライベートへの序列をつけているのでしょうか。明るさは真ん中の部屋で最も暗くなりますから、明暗とパブリック/プライベートとの対応は気になりました。
河内 この家では、そこまでは対応させていませんね。ただ、道路側をパブリックととらえれば、ある程度序列をつけてプライベートへと移行しています。


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Movie 「HOUSE y」

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