特集/ケーススタディ2

抜けを直線状に通し奥行きの感覚を変える

茶織 ボイドという形で光をとり、スリットのようにフルハイトの開口部を設けたというルールはよくわかります。ただ、外観では開口部によって箱の印象がくずれる可能性もありますよね。開口部を設けるとき、外側のルールは何か設定されましたか。
河内 壁面に対して窓をあけるというよりは、倉庫のような箱から3列のボイドを抜き取るようなイメージだったので、FIXのスチールサッシの押し縁はガルバリウム鋼板でカバーして隠し、箱の印象を残しました。
茶織 明度のコントロールを考えるとき、開口部のまわりでは外壁側に軒や庇でもう1層つくれたのではないかと思いましたが、いかがですか。
河内 建ぺい率や容積率から建物のボリュームとしてはギリギリを確保したので、軒先をつくれませんでした。総2階の箱のボリュームから計画を始めたからでもありますが。
幹也 この家は、別の土地にあっても成立するでしょうか。3列のボイドは、光という抽象的なものからつくられたもので、街のコンテクストからではありませんよね。
河内 そうですね。どこに置いても成立する住宅にしたいと思いますし、そのなかで、街と連続する形式を提案したいと考えています。
幹也 提案の枠組みを考えるうえで、箱は扱いやすいのでしょうか。
河内 そうですね……。箱という形について本来はもっと考えるべきなのでしょうけれど、箱からスタートする設計のメリットは、どこにでも置けるということです。また、大きな建築にも発展しやすいと思います。
幹也 スケールにとらわれず、展開しやすいということですね。ところで収納や階段の納まる部分は、柱が太くなったというイメージでしょうか。
河内 実際はそうですね。小さな部屋の連続で、動かないと見えないところがあります。
幹也 この家はとくに、動かないと見えてきませんね。そして外の見え方が、ここまで空間が伸縮する感覚に影響するとは思ってもみませんでした。自分は最初、プランをあえて上下階で同じにしたのは、部屋の壁面の量やボリュームが同じになり、明暗の差がハッキリすることをねらっているからだと思っていました。ところが実際には、外に抜ける感覚のほうが強く感じました。これは、真ん中のリビングの大きさも関係しているのでしょう。もう少し大きかったら、抜けはたぶん意識に上らないはずです。
河内 部屋の大きさにヒエラルキーをつくりたくなかったというのは、「綴の家」と同じだと思います。後は経済性からいうと、すべて6畳ほどにするスパンは合理的です。そこに開口部を設けて、抜けを直線状に通しました。その理由のひとつは、やはり奥行きを近くに見せたいということです。静岡の御殿場に向かう途中で、両側に家が立つ街並みで富士山がスパンと見える道があるのですが、そこでは山がとても大きく感じられるのですね。この住宅では最初、開口部の位置をずらしたパターンも試しましたが、スパンと見えるというのは大きな効果があるなと実感して直線に通しました。 幹也 自分の居場所によって光の関係も含めた外との距離が変わりますし、伸縮するという感覚もあって、この家は箱型でありながら、実際はかなり複雑ですね。
幹也 自分の居場所によって光の関係も含めた外との距離が変わりますし、伸縮するという感覚もあって、この家は箱型でありながら、実際はかなり複雑ですね。
茶織 窓を壁に切り取るようにあけて、外を見なさいと規定することとはまるで違いますね。スケールのコントロールも含めて、この住宅のような街とのつながり方があるのだなと新鮮な体験をしました。


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