特集/ケーススタディ1

ぎりぎりのディテール

 もうひとつ、妻側から見て気づくのは、極限まで整理し突き詰めたと見えるディテールだ。そのディテールによって、この建築の造形性は極端に明快になる。
 形が示され、ディテールによって形が意味をもってきた。ディテールと形が一体になって、この繊細な造形は成立したということか。シンプルさこそが突き詰められ、形が明快になっている。
 図面はほとんど原寸で描いているという。
 妻側側面の壁は、フレキシブルボード7枚。上下でサイズに変化がつけられている。ともに既成サイズを使い、上は大判の 4'× 8' を3枚、下は 3'× 6' を4枚。1階部分を小さく見せようとする視覚的意識的操作だろう。
 その上に被る屋根はもっと明快に形を発言している。厚さ約60㎜。銀色に仕上げられている。その結果、屋根は1枚の金属板のようになる。軽く、存在感を消していく。屋根の裏側は鉄板亜鉛引板の銀色をそのまま表し、その向こうから入ってくる光を反射して透明感を高めている。
 軀体との接点の処理がそれをさらに強調する。一点で接しているだけに見える。アングルを使って結束している。接点が消えることで屋根は軽やかになる。
 樋の仕組みが気になった。雨を隣地に落とさないために、この60㎜の厚みの中に樋が仕込まれている。集まった雨の落とし口は、なんとシンプルに中央近くに各2カ所、穴があけられ、そこから束になって雨が落ちる。シンプルさを追求すればこうなるだろうと納得した。明らかな雨落としの仕掛けは、ここにはありえない。
 この側面は、ほとんどミニマリズムといっていい。ちなみに、内部にいて雨音をまったく感じなかった。屋根には二重に断熱材が入っているとのこと。原寸で描いたという図面に納得する。
 ある意味、玩具を巨大化した家ともいえるだろうか。形を追った純粋表現を確保するために、シンプリシティが追求された結果だ。そこに相当なエネルギーが注ぎ込まれているであろうことは明白だ。建築でありながら、指物師の仕事のように。たとえば、屋根を1枚の金属板と見せたいがために注がれたエネルギーを感じる。
 壁厚もそうだ。厚さ124㎜。扉を開けた瞬間、断面が現れる。建築全体を繊細に見せることに役立っている。図面では気づきにくいところだ。この壁面を確保するために、2階の床荷重は、1階の5本の本棚の両サイドの側板に分散、分担させている。


>> 「経堂の住宅」の屋根詳細図を見る

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