
「経堂の住宅」の前に立って、まず感じるのは、その形状のシンプルさだ。子どもが描くような家の原形がそこにある。それを建築家の視点で磨き上げ、形にしている。とはいえ、そこにはある種の違和感がある。どこが違うのか。ひとつは妻側から見た建物のプロポーションからくる違和感だろうか。なじんだことのないこの建築のプロポーションの異質感がここにはある。
幅3504㎜、高さ5358㎜。確かにこのプロポーションは、どこにでもある町なかの見慣れた住宅とは異なっている。日常的に見る家のプロポーション感から、明らかに逸脱している。
長谷川作品を過去にさかのぼって見直してみると、そこにはプロポーションと断面の意識の存在が強いと感じる。6.5mの空中に漂う居室の家「森のピロティ」(10)はあえて別格としてもだ。簡単にいうと、この「経堂の住宅」の場合、妻側から見えるのは、ちょっと天井高の大きい家の1層分としてありえるサイズ。その不思議さは、前面に長谷川さんが立つ表紙の写真からも感じてもらえるだろう。
明らかに意識的な操作がここにはある。1階、床-天井の高さ1820㎜。住み手の身長からぎりぎりの空間が算出されている。結論からいえば、この1階の天井高が、この建築全体のプロポーションに変化をつけ、さらに居住者の生活に過不足のない空間を生み出している。1階は小ぶりに、2階は大きく開放されている。色彩、素材感の変化も大きい。
その階高の差が生み出したもうひとつのポイントは、縦の平面図に対して、横に切った階段だろう。一般的にいえばこの距離では1本の階段で2階へは上りきれない。極端に勾配のきびしい階段が必要になるはずだ。しかし、1階の階高を抑えることで、この横に切る階段の無理のない設計が可能になっている。1段190㎜の蹴上げに、踏み込み200㎜。10段で無理なく2階へ上っていける。造形的には一見、一体の木を削り出したごとくに。一体感を感じる彫刻的な階段が設定された。軽やかな建築全体のなかでここだけ存在感を強調している。
意識的なプロポーションの操作が、内部における昇降の問題点をも一挙に解決している。施主の要望から生まれた形だというけれど、注意深いヒアリングの成果だろう。





