特集/ケーススタディ3

微妙に浮かぶ白い壁

 建築は15.5m×6.5mの長方形平面、濃灰色の鋼板の片流れ屋根、雨樋をなくし、現しの垂木にテーパーをかけて薄く見せた水平の軒、白漆喰の外壁。
 庭側の壁にはガラス開口が2カ所、木の扉がふたつ。プロポーションが頼りのシンプルな構成である。背景としての書割と記したように、この壁面は1枚のスクリーンで背後に空間がないようにも見えれば、途方もないボリュームが背後にあるようにも見える。この両義的な見えがかりをもつ壁は、地表面から持ち上げられていることで、さらにフシギさが増している。地表との隙間は土地の傾斜から、33㎝~66㎝。持ち上げられているというにはいささか狭く、隙間というにはかなり広い。微妙な間隔である。
 設計者によると、持ち上げた理由は、ひとつには地盤がよくないので杭を打つ必要があり、それならば床面を高く浮かせてもよいだろうという判断、ふたつには室内からの眺望の具合から床のレベルを高く設定したかったからという。しかし、どちらも決定的な理由とはいえない。
 重量感に富んでいるわけではないが、決して軽やかではない白い壁面が中途半端な高さに浮いている。無意識のうちに以前に見たことがあるものと比較して判断し、評価をするのが人の常だが、比較対象が浮かばない。違和感が残る。なにかヘンだが、どこがヘンなのかわからない。しかし地表に舞い降りたようにも、地表を離れて平等院に向かい滑り降りていくようにも見える姿は、見直すごとに格好よい。設計者の術中にはまってしまっている。思えば、すべてがフツウの範囲内にとどまる限り、現世の領域にあるしかない。橋を渡った向こう側は聖域にして異界なのだから、どこかにフシギを宿すことが意図されたのではないか。


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