特集/ケーススタディ3

働きにふさわしいディテールを与える

 内部は大らかな清々とした空間で、大きなフシギは見当たらない。
 小さなフシギのひとつは、玄関を入った正面にキッチンの扉があり、キッチンを通り抜けた先にトイレがある構成だろうか。このゾーンだけ床が大理石とされ、キッチンとトイレは一体の箱のような扱いで、壁は艶のあるスタッコ磨き仕上げ。
 もうひとつの小さなフシギは、現しになっている梁の位置が外壁から90㎝内側であるが、梁を支える柱が隠されるか、巧みに処理されているために、構造体の仕組みが明示されているような、いないような、半端な具合になっていること。
 ディテールの志向は4つの開口に明らかだ。各々の開口の機能は明瞭に特定され、相応の形、大きさ、ディテールが与えられている。執務室であるスペース1の東の窓は天地左右一杯の思い切り大きな開口でフィックス。陽光がさんさんと射し込み、遠方の山並みを望める。西の壁には小さな窓。延段を渡ってくる人の気配を知るための覗き窓の役割で、幅16㎝と最小限。作業室であるスペース2の東の窓は、腰が135㎝、高さ80㎝、両側が片引き。遠景と中景がちょうどよく切り取られている。反対の西側の窓は、高さ115㎝の地窓で、近景の庭の様子が枠どられている。片引きの扉があって、デッキに出られ、夏季は通風を得ることもできる。
 特定の働きに対して特定の形、大きさ、ディテールを与える。逆に、働きが明瞭に特定されていない部位は決して設けない。あらゆる観点から、無用を取り払う。宇治のアトリエではそれが徹底されているが、それこそはミニマリズムの真の精神かと思う。むやみに形を整理しようとしたり、わけもなく仕上げや色を減じてみたり、過度の禁欲を強いたりするのがミニマリズムなわけではない。


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