特集/座談会+ケーススタディ

見えない関係が建築全体を決めていく

新関 検討の余地や余裕は計画に織り込んでいるのですか。というのも、その設定が最終の出来上がりにも影響してくるはずだからです。要望をなんでも受け入れて進め、原寸で体験して新たに追加や変更をしていくとなると、もともとの骨格をどのように考えていらっしゃるかが気になります。
久明 骨格としては空間の質をどう確保するかが重要で、それには空間の大きさやボリュームが深くかかわっていると思います。たとえばリビングの標準の広さは、ソファを置いた暮らしでは理想は16畳。自分が育った環境から出てきている広さなのですが、そこからスタートして全体とのバランスで決めています。そして、空間の骨格をつくる最後の段階として、プロポーションが大切です。この「八雲の家」では、1階の平面は正方形がふたつ入る5.5m×11mの寸法をしていて、リビングの断面は正方形がひとつ入るようになっています。プランニングが定まってきた段階でプロポーションを整えてボリュームを決めるこの手順は、私たちは重要なステージとしてとらえています。「PATIO」では、2対3のプロポーションの長方形が採用されています。
新関 現地でこのプロポーションの図を見たときには、驚きました。
久明 あくまでボリュームとして空間をとらえていますので、高さ方向も整えていきます。「PATIO」に入ると、空間が見えないところまで連続した泡のようなものとして感じられ、包まれたような落ち着いた感じを受けると思います。「八雲の家」でも、リビングに現れているタイロッドと天井との角度は、延長線がちょうど床面で交わるようになっています。見えない関係が建築全体を決めていくのは、私が「オーダー」と呼ぶところで、空間や物の秩序ある関係を意味し、プロポーションもそのひとつです。私は修士論文で、ルイス・カーン(Louis Kahn/1901~74)の比例概念の研究をしましたが、彼のすべての建物のプランが正方形や黄金比のひとつである5対3の矩形をもとにしていることがわかりました。これは古典的伝統を踏まえながら、建築を革新したコルビュジエ(Le Corbusier/1887~1965)や、ほかの建築家も用いる設計手法で、全体を整える際の重要な要素になっています。
直子 落ち着き、疲れない空間づくりには、バランスが重要です。最後に調整をしていく手順をとることが、その役に立つということです。
新関 整えられるとどうなるのでしょう。
久明 「建築」になっていく、ということですね。部屋と部屋の大きさや関係性に、秩序を与えているのだと思います。最後に出来上がったところで安定し、包まれたような居心地のよいスペースになると感じます。
新関 矢板さんたちは建物に、安定感や調和をもたせることを目指していらっしゃるのでしょうか。
久明 そうですね、私たちのつくる建築は古典的なのかもしれません。それはオーダーが形づくる安定感であり、秩序ある美学を私たちが希求している結果ともいえます。コルビュジエも建築とは何かと問われたインタビューに「考えるに値するものに秩序を与えることだ」と答えていたことをいつも思い出します。プランができたときに、ひとりでに正方形や5対3などのプロポーションが現れていることに気づくことも多くあります。そのプロポーションを混在させずに一貫させることで、建物自身のキャラクターや個性となっていきます。私たちがほかの要件もすべてをひとつの器に入れて、カタカタと揺らしながら調整をしていくうちに、だんだんと概念が現実化し、ディテールを思考することを通して着地させることができるようになります。概念を現実化させるのに必要なのがディテールだとすれば、プロポーションを整えることも同じような位置付けだと考えています。


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