特集/座談会+ケーススタディ

見た目の美学と機能の両立

新関 最後の塩・胡椒の手順がないと、どうなると思いますか。
久明 大事なものが足りないと感じるでしょうね。この住宅での別の例では、キッチンの換気扇を横引き排気の製品にしていますが、これは現場に入ってから、建て主の要望で天井付けタイプから変更したものです。キッチンカウンターの上に、設備機器としてではなくオブジェを置くような見せ方でディテールを考えていきました。現場での変更とはなりましたが、使い方の要望も加わることで、生きたディテールになったように思います。「見てよし、使ってよし」と言いますか、見た目の美学と機能を両立することを考えていくのです。デザイン上で必要だからといってできたものはありません。
新関 私も、建物をつくっていく過程で気づくことや思うところはいろいろあります。現場の変更で気になるのはまず金額や工期の面ですが、建て主に金額が変わることの説明ややりとりはどのようにするのですか。変更する部分の工事はストップして、金額の見積もりをし、それを建て主が了承してから再び工事をするという手順をとるのでしょうか。
直子 そうですね。ストップはしませんが、できるだけオープンにして説明するようにしています。
久明 設計者が建物についてまず決めるのはスペックで、そこから金額を出して発注しますので、まずはその枠のなかで考えることになります。ただ、住宅の場合はビルと違ってスペックをもとにした施工図がなかなか用意されませんから、自分たちでまかなわないといけない。いきおい現場に入ってから施工図に近い図を自分たちで描き出すことになります。けれども手元に引き寄せて考えることになるので、論理的な思考というよりも感性的な思考が働くことが多くなり、そのほうがはるかにおもしろい。一方で全体の一貫性は薄くなりがちで、どのようにそれぞれを統合して、統一した美学を出すかについては頭を悩ませるところです。
新関 そこはどうしているのですか。最初の方針が通っていて、建築としての総体がしっかりしているので、後からまとめられるということでしょうか。
久明 そうだと思いますが、実務を始めた頃は、設計や施工の途中で新たな要望が出されることは恐怖でした。自分のストーリーが崩されるのではないかと思っていましたから。今は経験を積んだこともあって、必ず答えは見つかるという確信がありますし、逆に自分の気づかなかったことを知らせてくれるチャンスのようにも思えています。


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