特集/座談会+ケーススタディ

要望や必要があって、ディテールは出現する

矢板久明(以下、久明 私たちはふたりとも、比較的大きなスケールの建物から設計のキャリアを始めています。そういった建物では、骨格を決める考え方や空間や光の印象的なシーンなど、設計者として強くイメージすることが必要ですが、住宅では特別に「こうしたい」という意識はもたずに臨んでいます。
矢板直子(以下、直子 建て主が求めていることや必要な機能をまず知ることが大切なので、私たちがどのようにつくりたいかは関係ないのです。家の形は一軒一軒変わりますし、ディテールも変わってくる。同じような納まりとなることもありますが、建て主の使い勝手や要望に応じて細部は変わります。
久明 オーダーメイドの洋服をつくっている気分ですね。建て主の雰囲気や趣味に合うのはなんだろうと考えていくと、建て主と共有するテーマや目標が出てきて、議論しながらつくっていく。要望が難しければ難しいほどそれがエネルギーになりますし、相手の力を借りて思考を進めていくので、着地点が楽しみになります。建築家は建て主の希望を実現する、いわば触媒のような役割だとも思っています。
新関 最初は白紙から始まり、1本の線が出てきて何かが入りだす。こうしたきっかけは、建て主の要望や趣味なのでしょうか。
直子 暮らし方全般ですね。居心地がよいという感覚は人によってすごく違います。寸法でも、身体感覚によって広さに対する感覚は違います。それで、最初のうちはずっとヒアリングします。私たちが「プログラムシート」と呼ぶ表に、建て主の要望を細かく書き出していきます。ヒアリングを重ねるごとに部屋同士の関係性も考えてバージョンアップさせ、予算の概算も出しますが、具体的な形をつくることはこの段階ではあまりしません。
久明 ディテールはあくまで、要望や必要があって出てくるものです。たとえばこの「八雲の家」では、階段の踊り場付近で求められる用途や安全性を入れ込みながら出窓部分の縦格子や手すりの形が出てきましたが、リビングの中の重要なデザインエレメントにもなりました。
新関 それはいつ頃の段階ですか。
久明 現場に入ってから、それも後半です。ディテールとして検討するのはおもに現場に入ってからで、それぞれの部品を発注する寸前まで描いて検討しています。そこまで進まないと、なかなか手で触れたときのイメージまでできるようにはならないものですから。
直子 足したり引いたりといった検討をずっと続けています。自分たちでは「最後の塩・胡椒」と言っているのですが、ギリギリまでもがくというか、最後にある美学が見つかればいいという感じでしょうか。


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