石井自邸は〈目神山の家〉(76)の名で通っているが、目神山を歩いたからといって外から見ることはできない。緑に囲まれ、目神山の下り斜面に身を隠すような構えになっているからだ。目神山に埋もれた家。当初からそのねらいだったことは、通りから斜面の下方に見えるはずの屋根に草を植えて隠したことからもわかる。屋上庭園をつくる建築家は少なくないが、建築を隠そうと思ってつくる人はごくまれだろう。私だってそうではない。
 斜面を下りて、家の中に入り、吉村順三風ディテールの小さな和室(客間だったという)から外を見ると、すぐそばをきれいな水のせせらぎが流れている。ミニ落水荘の趣。
 吉村を終生、敬愛し、吉村のこの方面の住宅とオフィスビルのふたつの現場監理まで引き受けている。
 ついで主室。柱2本で支えられた空間に、食堂、書斎、居間の3機能が納まる。アテ付きの柱ばかり記憶にあったが、空間の主役は大きな暖炉。太い薪を燃やす本格派。もしかしたら本当にライトの落水荘を意識していたのかもしれない。吉村ゆずりともいえるが、吉村も元をたどるとレーモンド経由のライト。吉村の名作「軽井沢の山荘」(62)も、そういえば敷地の縁をせせらぎが流れていた。こう書きながら気づいたが、ライト、吉村、石井と続く、自然のなかの火と水の系譜。フムフム、今後このあたりからあれこれ考えられそうだ。

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