特集3/ケーススタディ

単純化による構想の純化

 アイデアはシンプルだったが、完成に至るには想像をはるかに上まわる困難があったという。
 構造が大変だった。既存の木造の構造体はゆがみを直すだけで、元通り自立する。スパン10m余りの鉄骨シェルターも自立するが、両者は要所で結ばれ、木造を鉄骨がサポートする形をとる。こうした変則の混構造は、建築基準法改正前の当時でも許可を得るのに大きな苦労があったそうだが、法改正後の今では、おそらく認可されないという。誰が考えても安全なことが、計算にのらない、規則内で解釈しづらいという理由で実現を阻まれるのだとしたら、残念なことだ。
 冷暖房の対応も大きな課題だった。とくに天井が高い一室空間なので、冬の寒さ対策が肝要だったが、深夜電力を利用して床スラブ全体に蓄熱する暖房システムを導入することで解決された。夏の冷房は、天井の高さを生かした機械換気と2台のエアコンの併用で対応、結果としても問題がなかった。
 最大の困難はコスト。あらゆる切りつめを行っても追いつかず、振り出しに戻る危機もあったというが、構想を気に入っていた注文主の夫妻の熱意に後押しされ、さらに検討し、やっと実現に漕ぎ着けたのだそうだ。庇のない切妻の形、ガルバリウム鋼板の外装、全面クロス張りの内装など、すべてが単純化されている。それはコストの制限によるのだが、その単純さによって、木造軸組と鉄骨シェルターというシンプルな構想がさらに純化されて実現されている。

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