特集3/ケーススタディ

140年前の畳間と21世紀の居間の並置

 外観はどこから見ても倉庫か町工場と見紛う。一歩室内に踏み込むと、住宅のスケールを超えた歴史展示ミュージアムを思わせる巨大な空間が出現する。ふたつのトップライトからの自然光がやわらかく全体にまわる空間に、時の経過を吸い込んだ漆黒に照り輝く木材が中空を四方に跳んでいる。高貴である。美しい。静けさが漂う。時が停止する。
 140年前の畳間と、21世紀の居間とが、それぞれなんの変形もされないままに並置されている。不思議な光景なのだが、あまりにも違和感がないのでそのことに気がつかない。そういえば、畳間の仕切りを使用勝手に合わせて襖と障子を使い分けたり、畳間の裏側に階段をふたつ配して回遊性を確保するなど、現在の住まいとしてふつうに機能するような工夫が、巧みに、さりげなくなされている。
 南西の居間からは遠く比叡の山並みが望める。西北の縁側に座ると、隣地の素朴な農園の光景が眼前に広がる。東南の縁側の前には広い庭があるが、その整備途上の庭を少しずつ手入れしていくことが、夫妻の現行の課題であり、楽しみでもあるようだ。庭を中心に、母屋のほかに美容室の小さなシェルター、倉庫の中くらいのシェルターが同型のシルエットと素材で完成している。今後さらにシェルターが増える予定もあると聞く。そうなれば時の記憶を内包した、不思議な魅力をもった集落が誕生することになるだろう。

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