アジャイの代表作である「IDEA STORE」が建つWHITECHAPELというエリアは、ここ本当にロンドンなの? と疑うくらいに、エスニックな顔立ちの人やモノで溢れかえっていて、ストリートにぎゅうぎゅうに立ちならんだ露店を抜けていくと、遠くのほうに色とりどりのガラスでできたピクセルの壁が見えてくる。それが「IDEA STORE WHITECHAPEL」だ。色ガラスの半透明でカラフルな壁がふわっと入口に覆い被さってきていて、そのすぐ真下まで露店がはみ出している。すぐというのは、本当にすぐそこで、これほどにストリートのイリーガルな構築物と親しい関係にある現代建築をみたことはないという、すごい迫力の近接関係がそこにあった。もうディープキス寸前みたいな距離感。
今回の展覧会がアジア初の個展であることがアナウンスされたのち、アジァイが登壇。この日は、ブラック&ホワイトでまとめたクールないでたち(靴はもしかしたらプーマの白いフセイン・チャラヤンモデルかもしれない)。
アジャイは、1992年頃に日本で建築を勉強していたので、こうして日本で個展が実現してとても光栄だというような挨拶から始める。聞き手全員にきちんと言葉を届けよう、きちんと対話をしたいんだという、その丁寧な話し方にまず心を打たれる。PresentationというよりConversationという感じの彼の言葉を直接聴きたいという親密な気分になったので、多少の聴きもれは気にせずに同通イヤホンをはずしてしまった。同じような気持ちになった人もたくさんいただろうと思う。
アジャイはこの日5つのテーマに沿って11の作品を説明した。「Mass, Void, Light」、「Absorption + Reflection」、「Structure + Light」、「Luminescene + Atmosphere」、「Shadows + Pixelation」という5つのテーマはいずれも光に関わる言葉が選ばれている。これは今回の展覧会に合わせて出版された『OUTPUT』という作品集があえて(アジャイの強い要望で)モノクロームで印刷され、空間の光の濃淡に主題をおいたことと連動しているのだろう。アジャイは、都市の多様性、プログラムの多様性、素材の多様性を自在に操る知的で感性豊かな建築家だが、さまざまな場所・規模で展開される作品群のその中心を貫くメソッドが光であるという主張はとても興味深い。
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