Klein Dytham architecture, '20 Klein Dytham architecture'
2009 4.8-2009 6.6
講演会レポート
POWERS OF 20
レポーター:磯 達雄
 
3人目のKDa

ステージには、アストリッド・クラインとマーク・ダイサムのほかにもうひとり、久山幸成さんが登場した。彼はクライン・ダイサム・アーキテクツ(KDa)の、初期からのメンバーである。登場の理由は、二人の日本語能力に問題があるからではない。クラインとダイサムは、漫才コンビでいえばどちらもボケ役をやりたがる。やはりツッコミが必要ということで、久山さんがその役を任されたわけだ。それは見事に功を奏して、軽妙な掛け合いの途中に、絶妙なタイミングで注釈と「なんでやねん」が入る(関西弁ではなかったけど)。
建築家の講演会とはとても思えないようなリズムと間合い。このへんは、彼らが始めて、今や世界的に広まったイベント=ぺちゃくちゃないと(註1)の経験を踏まえてのものなのだろう。講演会の内容を文章に書き起こしても、この楽しさは伝わらないだろうな(ご愁傷様)。

20というマジックナンバー

この日の進行は、展覧会のタイトルにもなっている「20」に即して、20個のキーワードを示し、それぞれに関連させて自作を語るという形式が採られた。「20」という数字は、クラインとダイサムが日本で活動を始めて20年目に当たることから選ばれたものだが、日本では20歳で成人になったり、伊勢神宮の式年造営が20年ごとだったりと、この数字はある種のマジック・ナンバーなのだという。
そういえばかつてチャールズ&レイ・イームズは「10の力」(註2)と言った。クライン&ダイサムは、その2倍の力ということか。いや、それは冗談としても、建築に留まらず家具やイベントなど、幅広い分野でデザイナーとして活躍しているところ、KDaとイームズ夫妻は似ているといえなくはない。コレクター気質があるところも共通している(ダイサムはお菓子のキットカットの空き箱収集家なのだ)。もっとも、クラインとダイサムは夫婦ではないのだけれども。

講演会風景
ぺちゃくちゃないと
©Jan Chipchase
(サ)プライズ!

その20のキーワードだが、No Style、No Boundary、Collaborationといった、彼らの基本姿勢を表す言葉もあれば、Displacement、Colour、Graphicsといった、設計の手法に関する言葉もある。順番もバラバラで、体系立ってはいない。でも、この(ノー・)スタイルこそが、KDaの作品をもっとも的確に説明する方法なのだろう。
ひととおりトークが終わると、例によって質疑応答の時間が設けられた。が、そこにも彼らならではの趣向が凝らされていた。面白い質問をしてくれた3人に賞品を出す、というのだ。これもまた、自分たちの作品を一方的な表現に終わらせることなく、建物の利用者やその前を通り過ぎる通行人など、一般の人とのインタラクティブな関係を重視する彼らの姿勢を、わかりやすく表明していた(ちなみに一等の賞品は、KDaがデザインしたオリジナルTシャツ)。

外国人建築家の系譜として

さて、日本で活躍した外国人建築家の系譜というのがある。T. W. ウォートルス、ジョサイア・コンドル、アントニン・レーモンドと続く、日本の近代建築をリードしてきた流れである。彼らは、日本に「正しい」建築を伝えることを要請され、それを果たした。政治的に正しい建築、経済的に正しい建築、美的に正しい建築。日本人の建築家たちは、それを真面目に学び、自らのものへと吸収してきたのである。
しかし、日本で活躍する外国人建築家でも、クラインとダイサムの建築は(それが正しくないわけでは決してないが)、「正しさ」よりも「楽しさ」を重視しているように思える。「正しいからと言って何なの? 楽しくなければ意味ないじゃない?」。20のキーワードでもって語られた彼らの建築観は、つづめればそういうことではなかったか。
それは、いままでの外国人建築家の大御所たちから学ぼうとしたものとは、まったく別の方向性だ。でもそろそろ日本人の建築家も、そうした「楽しい」建築を学ぶ時期が来ている。
ウォートルス、コンドル、レーモンドと来て、その先にクラインとダイサムを置いてみると、そのあまりの落差にあっけにとられたりもするのだが、もしかしたらこういう日本近代建築史もありうるのかもしれない。彼らのショーを観ながら、そんな妄想を膨らませてみた春の宵であった。

註1:
建築家やデザイナーが集まって、各々が用意した20枚の画像を1枚につき20秒ずつでプレゼンテーションするというイベント。KDaが運営するイベントスペース「スーパー・デラックス」で始まったが、その後、同じ方式によるイベントが広まっていき、開催された都市は世界180以上、現在では毎月6,000人以上の人がこの催しを楽しんでいるという。

註2:
レイ&チャールズ・イームズが1968年に制作したショート・ムーヴィー『パワーズ・オブ・テン』のこと。人間のサイズからマクロな宇宙空間へ、そしてミクロの原子世界へと、異なるスケール間を自在に行き来する驚異的な映像である。
講演会風景
一等賞のKDaオリジナルTシャツ
日時
2009年4月17日(金) 17:30開場 18:30開演
会場
津田ホール
JR「千駄ヶ谷」駅、都営地下鉄大江戸線「国立競技場」駅A4出口 徒歩1分
講師
アストリッド・クライン、マーク・ダイサム、久山幸成
参加方法
事前申込制
定員
490名
参加費
無料
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