REALIZE—Emerging from China to the World Keiichiro Sako / Hironori Matsubara
2007 12.5-2008 2.23
展覧会レポート
Realize展のリアルな力
レポーター:豊田啓介
 
中国では、中途半端な気持ちで仕事はできない。
確かに他所ではあり得ないチャンスがいくらでもありそうで、これだけの数と規模が短期間に実現されているのを見ていると、建築家ならいやでも気になる。経済、社会、建築の質等に対する楽観論も聞こえつつある昨今、特に建築界において、以前にも増して、中国をより現実的なフィールドとして捉えている気配が感じられる。そんな中、ギャラリー・間においてタイムリーな企画が実現した。

多くの人が、両氏が独立に当たり、いきなり外国、しかも中国という場所を選んだ事実に驚き、感心する。確かに凄い。が、実際には、決して中国だけにこだわっているつもりもないのだろうと思う。ただ、中国という国が、いったん踏み込んでしまうと、そこに腰を据えざるを得ない国なのだ。外国人だろうと何だろうと関係なく、自分で手綱を握り続けていなければ、あっという間に置きざりにされてしまう。冒頭の言葉は、私の、中国で実際に2、3のプロジェクトに関わった上での率直な感想である。そんな国の、誰の先例もない中で、松原、迫の両氏は中国に拠点を構える方を選択し、精力的に実績を積み重ねている。パイオニアとしての苦労は計り知れないと思う。

展示室のうち、第1会場は迫氏の展示となっている。まずアイレベルに並べられた、都市的スケールの模型群の数、規模に圧倒される。誰もがまず、この年でこれだけの規模のものを、これだけの数、実現している事実に驚くだろう。大規模プロジェクトの模型と同時に、展示台やサンプルとして1/1の家具も展示され、狭いギャラリーの中を縦横に様々なスケールが飛び交う展示には、極力現実の建築をイメージできるように展示されているにも関わらず、ある種時空を飛び越えるような、不思議な躍動感がある。中国ならではの存在、スケール、スピード、モーメンタム、それをとにかく最大限に掴み取り、実現してしまおうという迫力が、そのまま展示されている。
第一会場を埋める迫慶一郎のシャープな展示
第一会場を埋める迫慶一郎の
シャープな展示
木の香りに包まれる第2会場の松原弘典の展示

木の香りに包まれる第2会場の
松原弘典の展示

 
中庭では北京の現在をリアルに現す映像を見ることができる
中庭では北京の現在をリアルに現す映像を見ることができる
photo : Nacása & Partners Inc.

中庭は、二人協働の展示スペースになっている。迫氏の巨大コンプレックスの模型があるかと思うと、一般の北京市民の、激変する都市や建築の状況に関するインタビューがリアルタイムに流されていて興味深い。展示台、ベンチなどは、第2会場の展示台と同様、松原氏による。

第2会場の松原氏の展示は、中央の書店を中心に、いくつかのインテリアの精緻な模型が、あえて同スケール、同仕様で連続して並べられている。スケールとパワーという、いわゆる中国的な期待を裏切り、あえて微妙なニュアンス、空間の違いを楽しんでいる感覚が伝わる展示になっている。中国という環境で、あえて外国人としてではなく、実地に根ざした現実的な視点から、一つひとつのものに固有の解、固有のニュアンスを生み出そうとするアプローチが感じられる。そこにあるもの(今の勢い?)を最大限に利用するというよりは、いかにそこに無いもの(繊細さ、手の良さ?)、実はあるけれど外からは見えにくいものを、じっくりと引き出し、実現できるかというテーマが見え隠れする。

二人展というのは、なかなか足し算以上の効果を作り出すのは難しいものだが、今回の展示も全体として見ると、上下の会場に連続性や相関性といったものは、正直さほど強くは感じられない。各氏それぞれに興味深い展示が独立している。しかし、そこが上手いと思った。実は両氏には、中国に拠点を置いて活動しているという点と年齢以外、大きな共通の方向性があるわけではない、と私は勝手に考えている。中国という場所、文化へのアプローチ、建築へのアプローチ、スタイル、事務所の運営など、どれにおいてもスタンスの異なる、独立した建築家である。そんな別個な二人の建築家が、一つの個展で共存していること自体がまさに現在の中国の縮図であり、そのような企画が成立してしまう、ある種乱暴な側面こそ、日本の建築界の、中国への期待感と不安の大きさの率直な表れだと思える。それらを束ねる唯一の共通性が、展覧会のタイトル通り、全部Realize(事実できてます!)という点だということ、これはやはり凄い。

多様なものをそのまま閉じ込めたようなこの展覧会で、誰もがどこかに抱いている、中国の現実への期待と不安に対する自分なりの答えを確かめることができるのではないか。両氏とも見事に、現状をストレートに展示することを根底に据えてくれていて、変に答えめいたことを提示しようとはしていない。この展覧会は、たまたま同じ場所からテイクオフした二人の建築家の、率直で臨場感に満ちた現状報告であって、両氏とも、自分の今をありのままに見せることが、日本の誰もが興味を持っている、中国の今を伝えるのに最良の方法であることを、よく理解している。

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