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山本理顕展  つくりながら考える/使いながらつくる
YAMAMOTO RIKEN  Thinking While Creating / Creating While Using
2003 02.15-04.26
建築を扱うプロセス
レポーター:蜂屋景二
山本理顕氏の講演会は、「社会性と作家性というふたつの間の部分、そこがわかりにくいところで、自分自身もその間を揺れている」という言葉からスタートし、現在進行中のプロジェクトについて解説しながら進められた。
話の核心は「エンドユーザーと関わりながら、どのように設計を進めていくか」ということであり、コンペで最優秀案に選ばれ現在基本設計が進行中の「邑楽町(おうらまち)役場庁舎」を中心に講演は展開された。

「邑楽町役場庁舎」設計コンペでは、コンペに挑む建築家に対する要請として、
 1)提案は他者のさまざまな見解を受け入れることができる
    システムをもっていなくてはならない。
 2)システの誘起する建築の実現は、なんらかの新しい美学に
    支えられること。
この2点が、要項に明確に記載されていたという。

つまり、住民参加を許容しながら、だからこそいままでにない新しい建築を実現せよ、というメッセージであった。 「いま建築をつくることはこういうことだ。」要項を読んだ山本氏は、大きな期待を抱いてコンペに参加したという。コンペでは、住民との共同作業を進めるためのツールとして「ORAユニット」が提案された。
「ORAユニット」は、鉄骨部材で組まれたフレーム同士が金属のベルトで締めつけるようにして接合される(現在、原寸大のモックアップがギャラリー・間で展示されている)。フレームの中は各種設備やダクトスペースとなり、その場所場所によって内壁パネルや外壁パネルが自由に取り付けられる。そのユニットその組み立て作業風景がムービーを用いて紹介された。

また、25分の1の「ORAユニット」の模型を用いながら開催された邑楽町の住民とのワークショップの様子や、数十名の、行政ばかりではない一般住民をも含めた建設委員会での討論内容が紹介された。

「従来の公共建築の多くは、実際に使用するエンドユーザーを抜きにして行政担当者とだけ打ち合わせをしてきたが、この町では住民と生活の中の具体的な出来事を中心に話をしている」という。
こうしたことは、建てる前のプロセスがすでに建築を多くの人と共有するチャンスになっていることを示しており、それこそがいま、この建築を成立させる上では大切なことなのだ、と山本氏は語った。
「邑楽町役場庁舎」全景模型
「邑楽町役場庁舎」全景模型
フレームユニット模型
フレームユニット模型
「ORAユニット」のベルト圧着方法
「ORAユニット」のベルト圧着方法
 
「邑楽町役場庁舎」全景模型
建設委員会とのディスカッション

邑楽町を含めた一連の公共建築のプロジェクトをとおして、山本氏は一貫して「どのようにエンドユーザーと問題を共有しながら自分の建築をつくっていこうとしているか」のプロセスを丁寧に説明した。それを聞きながら私は、建築家の役割として「建築を提案する」ことと同時に「提案した建築を扱う」ことがとても重要になってきていることを強く感じた。
  
ただ、説明を丁寧にすればするほど、山本氏が考えている「建築家の主体性」が伝わりにくくなっている側面も感じられた。
ユーザー参加を謳い文句にすると、建築の評価の指標がいわゆる「顧客満足度」になってしまう危険性がある。一方で、建築を提案するのも最終的に扱うのも建築家の責任であり役割である、と明快に言い切ってしまうと「明確な提案=作家的な振舞い」と取られかねない、という側面も併せもつ。いつまでもその狭間で足踏みしたくないという強い意志が、丁寧に説明する山本氏の言葉の中に窺えた。

   
公共建築に続いて、山本氏は現在進行中の集合住宅のプロジェクトについて語った。 もともと集合住宅は、第一次世界大戦後のドイツ・オーストリアで労働者住居としてビルディングタイプが成立し、この時に「1家族を1つの住居で仕切る」という方法とともにプライバシーという概念ができたのではないか、という歴史的見解を説明した。そしてその上で、日本もヨーロッパと同じで1家族を1つの住居で仕切ることが近代化への啓蒙だったのではないか、と自身の見解を示した。建設中の「CODAN東雲1街区」では、テーマを「現代の都市生活者にとっての"仕切り"の意味を問い直すこと」とし、これを「サンルーム型水廻り/シースルーエントランス/SOHO」という方法で試みているという。具体的には住居という単一の機能だけに対応する計画ではなく、店舗やオフィスにも十分対応できるような仕掛けが随所に盛り込まれた計画となっている。
「従来の団地タイプの集合住宅が目指した環境はいまの都市生活者にリアリティのないものになっていて、むしろマンションの中に住居やオフィスが混在していたり、あるいは小さな店舗までもが混在している様子に生活のリアリティがあるのではないか」というわけだ。

興味深いのは、山本氏の提案を検証する方法のひとつとして、公団と議論になったポイントを挙げて一般公開のアンケート調査を通して客観的に検証した結果、圧倒的多数のエンドユーザーが山本氏の提案を支持したことだ。

「邑楽町」と違い「CODAN東雲」は入居するユーザーが設計に参加する建築ではない。しかしこうした方法によって、必ずしも住民参加という方法をとらなくても「建築」というメディアをとおして、建築家と事業者と都市居住者のニーズを考えることができる余地が残っていることを示していると思えた。 
「邑楽町」と「CODAN東雲」。方法論に違いこそあれ、おそらくどちらの方法も、多くの人の参加によって従来の思い込みや見過ごしている部分を発見できるのではないかということが、山本理顕氏のモチベーションなのだろう。
 
「CODAN東雲」では入居を今年の夏に控えて工事が進んでいる様子が紹介されたが、ものすごく高密度なボリュームの街が出来上がりそうだ。
6つの街区にまたがるCODAN東雲地区は、6組の設計者が関わっている共同プロジェクトでもある。街並みをまとめるために、設計者同士が材料の扱い方やデザインを共有し、お互いに真似し合うことも含めて共同作業を進めているという。

「それでも建築家の違いは、すべてが完成したときにそれぞれ出てくるだろう」と山本氏は語った。きっと、建築を扱うプロセスの違いがはっきりするんだよ、と確信に満ちて語っているように私は思った。

「邑楽町役場庁舎」全景模型
「CODAN東雲」全景模型
フレームユニット模型
鉄の扉からガラスの扉へ
シースルーエントランス

写真提供=山本理顕設計工場
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