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建築の未来を問う一冊

激しい時代の変化に先んじて新しい建築のあり方をご提案されている建築家の方々に、これからの建築を見通すための礎となる1冊を紹介していただきました。
  • 青木弘司さん推薦!

    『不気味な建築』

    著者=アンソニー・ヴィドラー
    訳者=大島哲蔵, 道家洋
    3,740円(本体3,400円+税10%)
    出版社=鹿島出版会
    私たちは、新型コロナウィルスという目に見えない恐怖との共存を余儀なくされていますが、さまざまな対策が施されるほどに、ますます社会の同質化も加速していくでしょう。同質的な社会は、紋切り型の価値観に支配され、私たちの多元的なアイデンティティを奪い去ってしまいます。
    私たちの日常は、もっと複雑であり、差異や偶然性に満ちています。さらにいうと、薄気味悪い謎めいた気配や、ある種のグロテスクな要素を含んでいます。このような、日常に潜在する「不気味さ」に、今こそ向き合うべきではないでしょうか。今を生きる建築家は、建築の実践を通して、制度化された価値を問い直し、生の実感を取り戻すための寛容な空間を提示しなければなりません。この「不気味な建築」は、そのための座右の書となるはずです。

    青木弘司(あおき・こうじ)

    建築家
    1976年 北海道生まれ
    2001年 北海学園大学工学部建築学科 卒業
    2003年 室蘭工業大学大学院 修士課程 修了
    2003〜2011年 藤本壮介建築設計事務所 勤務
    2011年 青木弘司建築設計事務所 設立
    現在、合同会社AAOAA一級建築士事務所主催、武蔵野美術大学、東京造形大学、前橋工科大学、早稲田大学、文化学園大学、東京都市大学非常勤講師、法政大学兼任講師
    第15回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展日本館にて特別表彰、JIA北海道支部 建築大賞2019 審査委員長賞、第3回日本建築設計学会賞、住宅建築賞 2021を受賞

  • 稲垣淳哉さん推薦!

    『臨床の知とは何か』

    著者=中村雄二郎
    902円(本体820円+税10%)
    出版社=岩波書店
    フィールドワークを原動力として建築に向かう一人として、移動や接触が制限され、過度な衛生感が覆うこの時代はとても息苦しい。本書では、建築フィールドワークをも包含する「臨床の知」を、近代科学がこの200~300年私たちから遠ざけたものとし、「近代の知」を批判的に検証することから導いていく。それは普遍性、論理性、客観性が排除した、固有性(コスモロジー)、多義性(シンボリズム)、身体性(パフォーマティブ)だという。例えば環境や対象に対して距離を保つ操作的な態度ではなく、環境や他者と相互関与し、身体性を織込む受容的なアプローチを「臨床の知」という。建築の様々なアクチュアリティを鮮やかに束ねてくれる一冊。
    ©Ookura Hideki

    稲垣淳哉(いながき・じゅんや)

    建築家 Eureka共同主宰
    1980年愛知県生まれ。
    2006年早稲田大学大学院修士課程修了。
    2007年〜10年早稲田大学建築学科専任助手(古谷誠章研究室)を経て、2009年に佐野哲史、永井拓生、堀英祐と共に、計画・意匠・構造・環境、異分野共同による建築家集団Eureka(エウレカ)を設立。
    代表作にDragon Court Village、奈義町多世代交流広場ナギテラス、Nagasaki Job Port等がある。

  • 岩元真明さん推薦!

    『日常的実践のポイエティーク』

    著者=ミシェル・ド・セルトー
    訳者=山田登世子
    1,870円(本体1700円+税10%)
    出版社=筑摩書房
    「そこにあるのは、「強者」のうちたてた秩序のなかで「弱者」のみせる巧みな業であり、他者の領域で事をやってのける技、狩猟家の策略、自在な機動力、詩的でもあれば戦闘的でもあるような、意気はずむ独創なのである。」(本書より)
    公権力や巨大資本が「戦略的に」築きあげる空間的秩序に対し、セルトーは密猟・横領・狡知といった挑発的な言葉を用いて日常的実践の「戦術的な」可能性を説く。
    かつてなく貧富の格差が拡大し、ジェントリフィケーションがすすみ、公・民による監視が張りめぐらされ、不寛容・不自由を感じることが多い現代社会。『日常的実践のポイエティーク』は、そのなかで設計する勇気とヒントを与えてくれる。
    ©遠藤秀一

    岩元真明(いわもと・まさあき)

    建築家
    1982年東京都生まれ。
    2008年東京大学大学院修了後、難波和彦+界工作舎スタッフ、Vo Trong Nghia Architectsパートナーを経て2015年よりICADA共同主宰。
    2016年より九州大学助教。
    2018年日本建築設計学会architects of the year、2019年日本空間デザイン賞金賞ほか受賞。
    訳書にロベルト・ガルジャーニ『レム・コールハース|OMA──驚異の構築』(鹿島出版会、2015)。

  • 砂山太一さん推薦!

    『我々は 人間 なのか? - デザインと人間をめぐる考古学的覚書き』

    著者=ビアトリス・コロミーナ, マーク・ウィグリー
    訳者=牧尾晴喜
    3,300円(本体3,000円+税10%)
    出版社=ビー・エヌ・エヌ新社
    BIMや情報技術を介した設計・生産システムの実装など、ここ20年の状況変化は著しく、それらは少なからず建築の作り方を変えてきただろう。技術的革新が進行する一方で、はたしてそこにおける人類学的な検証は、十分に議論が進んでいるといえるだろうか?
    本書は、近代における人間像をポストヒューマンつまり機械的に合理化された存在とし、デザインもそのような人間像を構築する役割を担ってきたことを指摘する。人工知能などの汎用化によって生産が完全な形で機械技術に置き換わりつつある中で、近代的な価値観を超えた新たな人間像を構築するためのデザインのあり方とは何か。本書は、そのような問いに独自のパースペクティブを与えている。

    砂山太一(すなやま・たいち)

    企画者・制作者
    1980年生まれ。
    sunayama studio主宰。京都市立芸術大学 芸術学研究室 准教授。
    建築をはじめとした芸術領域における情報性・物質性を切り口とした制作・設計・企画・批評を手がける。
    主な活動に、「マテリアライジング展 情報と物質とそのあいだ」企画代表、「第17回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展日本館展示」出展建築家、雑誌検索閲覧サービス「新建築データ」ディレクションがある。

  • 津川恵理さん推薦!

    『建築する身体 - 人間を超えていくために』

    著者=荒川修作, マドリン・ギンズ
    訳者=河本英夫
    1,980円(本体1,800円+税10%)
    出版社=春秋社
    なぜ今、荒川修作なのか。
    いうまでもなく、2020年を節目に社会は変わった。大都市への一極集中から、自律的な地域の分散や情報空間の充実など、人が過ごす空間はここ数年で変化の兆しが生まれている。建築はどうなっていくのだろうか。これからの建築は、人が能動的に関わることにより、情報空間では獲得できない価値が生まれ、自然界のような予測不可能な現象が常に起こる状態を作りだせるかが求められるだろう。そこでキーになるのが、都市における「身体性」である。今後、建築から生まれる価値や機能は、人の振舞いや意識によって構築され、その場所に偶然居合わせた人々による創発性から生まれてくる。そのためには、人が如何に能動的に建築へ関与できるかを設計することが重要になる。そのヒントが、荒川修作の思想に隠れている。

    津川恵理(つがわ・えり)

    建築家
    2015年 早稲田大学院修了
    2015-2018年 組織設計事務所に勤務
    2018-2019年 文化庁新進芸術家海外研修員としてDiller Scofidio+ Renfro(NY)に勤務
    2019年- 神戸市三宮駅前広場コンペ最優秀賞受賞をきっかけに独立
         ALTEMY代表
    2020年- 東京藝術大学教育研究助手着任
         渋谷パルコ「GAKU」講師/東京理科大学非常勤講師

  • 冨永美保さん推薦!

    『吉祥寺だけが住みたい街ですか?』

    著者=マキヒロチ
    622円(本体565円+税10%)
    出版社=講談社
    コロナの期間になってから、なんとなく生活が馴染まなくなって、引越しをしました。 あたりまえですが町によってそれぞれの香りや音があり、帰り道や食事、起きる時間、住宅の並びや粒、人物までも、なにもかもが違い、日々その土地の暮らしそのものに、体や頭が編集されているように感じます。
    東京は多層的で、チグハグなキャラクターのパッチワークのような土地です。
    その町ならではの出来事の重なりから、それぞれの暮らしや一連の風景につながっていくような、緩やかで豊かな結び目となるような建築をつくりたいと思います。

    オムニバスなので、何巻からでも楽しめると思います。ぜひ。

    冨永美保(とみなが・みほ)

    建築家
    1988年東京生まれ。
    芝浦工業大学工学部建築工学科卒業、横浜国立大学大学院Y-GSA修了。東京藝術大学美術学科建築科教育研究助手を経て、2014年にトミトアーキテクチャを共同設立。
    現在、横浜国立大学非常勤講師。
    第1回JIA神奈川デザインアワード優秀賞受賞、SDレビュー2017入選、第2回Local Republic Award最優秀賞受賞、2018年ヴェネチアビエンナーレ出展。

  • 宮崎晃吉さん推薦!

    『日常 Vol.1』

    発行=一般社団法人 日本まちやど協会
    1,870円(1700円+税10%)
    出版社=真鶴出版
    手前味噌ながら自身が代表理事を務める「一般社団法人 日本まちやど協会」が発行した年刊誌「日常」創刊号を推薦します。
    日本まちやど協会は、日本各地で地域と一体となった宿泊施設である「まちやど」とよばれる事業を営む人たちによって組成された団体です。
    2020年のパンデミックによって各地の宿泊・観光業界は多大な影響を被ったわけですが、ある種インバウンドの熱に浮かされていた状態から、ふと本当に大事なことはなんだろうという根本的な問いに向き合うきっかけともなりました。そのとき、全世界のひとたちが同時に再認識することとなった「地域の日常」を克明に炙り出すレポートが、年に一回発行される雑誌として誕生しました。今でしか生まれなかったであろう一冊だと思います。

    宮崎晃吉(みやざき・みつよし)

    建築家
    1982年群馬県前橋市生まれ。
    2008年東京藝術大学大学院修士課程修了後、磯崎新アトリエ勤務。
    2011年より独立し建築設計やプロデュースを行うかたわら、2013年より、自社事業として東京・谷中を中心エリアとした築古のアパートや住宅をリノベーションした飲食、宿泊事業を設計および運営している。
    hanareで2018年グッドデザイン賞金賞受賞/ファイナリスト選出など。