ケーススタディ4

寸法から
空間へ

 まず特徴的なのはそのプラン。約8m角の大きな正方形のなかに、独立した小さな部屋がさまざまなかたちで置かれている。それは伝統的な「田の間」型を開放し、再構築しようとする試みである。
 1階入り口からゆったりとした土間を進むと、中央に壁から離れて独立した180㎜角の大黒柱が現れる。そこから四方の天井には淡い光を落とすスリットが延び、家の中心に向けた意識を高めている。そして同時に一間半角という四畳半の単位を巧みに変形して、部屋、階段、水まわり、収納などがつくられる。
 その拠り所としているのは、正方形とルート2のモジュールだという。そのモジュールも、敷地や家族などの条件により住宅ごとに変えていき、標準化はしない。そうした自在な感覚もまた、竹原さん独自の「和」を感じさせる要因にちがいない。ここでは910㎜を基本としながら、垂木割との繊細な調整を繰り返して最終的な寸法が決められた。
 そして1階は全体的にスケールが抑えられ、天井の2階根太までの高さは2180㎜。「なんとなく昔の家の感じがすると思う。日本人は畳と建具の内法、1735㎜を知っていた。明治から百何十年しかたっていないから生活が変わるわけではない」という竹原さんの言葉には説得力がある。こうしたこぢんまりとしたスケールだからこそ、モジュールの感覚も生きてくる。
 さて階段を2階へ上がると、空間の様相は一変する。大きな切妻屋根を支える垂木が連続し、その陰影が美しい。そしてその下に展開する大空間に、小さな部屋が島のように点在する。外側の格子戸を通した風が心地よい「外室」も、ひとつの部屋なのだ。それらが島状に見えるのは、各室の柱を梁のすぐ上で切り取り、上部ロフトの床面で水平剛性をもたせ構造的に独立させているため。つまり、この大空間には十文字に横切る陸梁がない。梁の差さっていない大黒柱は、断面欠損の心配もなく棟木だけを支えている。
 建主さんは「居所がたくさんある、小さい公園がたくさんある家」を要望したという。それに対する竹原さんからの提案は「腰を掛ける行為が自然にできる家」。確かにこの広々とした空間には多くの居場所があり、ワンルームの単調さはまったく感じられない。「日本の伝統的な住宅たく感じられない。「日本の伝統的な住宅は、それぞれの場所にそれぞれの格式がつくられていた」と竹原さん。ここもまた「和」の新たな解釈として、幾重にもレイヤーがかかったような空間が表現されている。


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