特集/その4

レーモンドとの対話

 ひとつ目の条件に対し、竣工当時の資料で見つかったのはモノクロ写真が内外1点ずつ、図面が簡単な平面図・立面図・断面図と暖炉の詳細図。レーモンド設計事務所の協力を得てもそれだけだった。そこで元良さんは、長い付き合いで「手」を知る工務店のベテラン大工を集める。図面では知りえないかつての工法や納まりを、相談しながらつくっていくためだ。76歳の棟梁をはじめ60代の大工たちは、造りのよく似たペイネ美術館を一緒に見学した後、隣接するログハウスに5カ月にわたって住み込み、その期待に応えることとなる。
 実際の改修にあたっては、「レーモンドならどう考えるか」という内なる対話が延々と繰り返されていった。元良さんの師匠であるアンジェロ・マンジャロッティは、棟梁による日本の建築システムに共感し、素材の物性に逆らわないデザインで知られる。それは期せずしてレーモンドの考え方と一致し、ストレートに設計に取り組めたという。増築部を取り壊し、外壁のモルタルをすべてはがしてみると構造体があらわになる。幸いだったのは、1階床や軒先は傷みが激しいものの、柱・梁はしっかりしていたこと。「触った瞬間、大丈夫だよって木が言っている感じがした」と元良さん。ガラスの入った木製掃き出し窓など多くの材料に洗いをかけて再利用することで、オリジナルの記憶を呼び起こすとともに全体の質感を格段に高めている。
 建物を維持するには構造と雨じまいが重要である。元の外壁内には縦横に井桁状に組んだ間柱があり、レーモンド独自の耐震性への配慮が見られた。今回は構造用合板を入れて耐震壁とし、防水層と空気層をもつ通気工法としている。外壁の新たなスギ下見板には、自然素材の保護塗料で開発されたばかりの透明なものを塗った。平葺きの屋根にも強力な防水下地を挟み込んでいる。目につかないところで最新の技術が使われた。
 また現しの丸太の垂木は、そのまま外の軒に連続する意匠が美しい。しかしオリジナルの軒先は傷んで落ちていた。ここでは構造的な整合性よりインテリアの雰囲気を保つことを優先し、外部のみ新材の丸太を桁上で継ぎ、フラッシュ板状の野地板から吊り込んだ。屋根はオリジナルよりわずかに厚くなったが、先端の繊細なプロポーションは踏襲されている。1本ずつ断面の異なる丸太と外壁との納まりは難しく、この加工だけで2カ月を要したそうだ。


「OKA MASAKAZU HOUSE」の改修前の姿を見る
「OKA MASAKAZU HOUSE」のオリジナル原図を見る
「OKA MASAKAZU HOUSE」の平面図・配置図と改修箇所を見る
「OKA MASAKAZU HOUSE」の断面図と改修箇所(2009年)を見る

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Movie 「 OKA MASAKAZU HOUSE 」

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