特集/その3

オリジナルのとおりに改修設計

 改修の設計は、原設計者につながりをもたない人で、すでに熊澤さんと一緒に仕事をしたことがある人という基準で 樋口善信さんが担当することになった。樋口さんにとっては口では言い表せないような重圧だっただろうが、原案に忠実に最小限の改修を行うという明確な指針と新世帯からの信頼が重圧を軽減したという。
 改修前は夫婦ふたり住まい、2階が玄関、居間、食堂、台所、寝室、1階がゲスト用のホール、宿泊室、それに使用人室という構成だったが、改修後は2階に夫婦と子どもふたりの世帯が、1階に親夫婦が住む2世帯となる。そのため、2階は茶の間、化粧室を子ども室に用途変更したのみだが、1階は客間和室に仏壇を新設したほか、ホールを居間に、使用人室まわりを食堂・台所に変更している。
 そのほかは仕上げ、設備とも傷みを修繕するというスタンス。外壁と軒裏の補修、煙突の再塗装、1階の一部の床の張り替えや壁仕上げの塗り替え、2階浴室の機器更新・改修、2階台所のカウンター改造と洗面台増設など。
 最大の改修といえば、2階部分の耐震性能向上のために、南北方向の壁面の筋かい数カ所を置き換えて補強し、さらに東西方向の壁面2カ所に新たに筋かいを補強していることである。
 これらを総じて、改修前と寸分たがわぬと断定しても差し支えない状態に仕上がっているといえよう。それには面積の十分なゆとりが大きく寄与している。とくに台所がそうだ。もともとプロの料理人が複数で使用することを前提にした2階の広大な台所は、夫人の要望で改修の選択肢もあったが、とりあえずカウンターを高くする程度の改造ですませておいたところ、親子4人が一緒に食事ができるスペースもとれ、洗濯コーナー、勝手口、納戸と一体となっているので、家事のすべてを行うことができ、結果として居間、食堂をいつもきれいに保っておけ、とても使い勝手がよいことがわかったという。それは新設した1階の台所も同様で、食堂と一体となり、夫婦ふたりの生活の場として十分な広さで、それゆえに居間や和室が雑然となることがない。もちろんそれだけではなく、全周に深くまわした庇、回遊性に富んだ使いやすい平面、当時最高レベルの設備計画と設備機器、耐久性にすぐれた素材の選定と丁寧な施工、原設計者によって続けられてきた丹念な修繕などの総合的な賜物であるにちがいない。


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