言葉を寄せつけない空間
こうして「湘南茅ヶ崎の家」は蘇り、住み継がれている。2階のホールから食堂、居間へと展開する天井高2260㎜から2520㎜の流麗な空間、例の暗色に塗られたラワンベニヤの天井の不可思議な効果、あるべき細部があるべき形に納まっている快適さ、機能上から自然に導かれた仕掛けなどについて言葉を費やすことはやめよう。吉村順三の住宅の内部空間が言葉を寄せつけない事実はあまねく指摘されて久しい。言葉を尽くすほどに実体から遠ざかって虚しさが募り、逆に言葉を選ぶほどに「居心地のよさ」といった凡庸な表現に陥らざるをえないからだ。
ただし、1階の改修された居間が、築山に半ば隠され、前面の池の揺らぐ反射光とあいまって、深い洞窟に潜むような安寧をもたらす空間になっていることは、2階の明朗で透明な空間との対比において印象的だったことだけは記しておきたい。