持続する強固な意志
67年竣工の「湘南茅ヶ崎の家」。ゴルフ場に直に接する南斜面。今でこそ前面の建物にややさえぎられているものの、湘南の海を望む絶好の立地。1階がRC造、2階が木造、470㎡の豪壮な邸宅だが、地形を生かした配置、抑制した階高・軒高、ライズの低い屋根により、ひっそりと沈み込むようなたたずまいとなっている。建築主によって92年になされた設備関係の大改修を含め、たびたび手が入れられていたが、原形はほとんどとどめられていた。その後、住み手がいなくなり、取り壊しの危機もあったというが、幸運にも熊澤茂吉さんという引き受け手が現れ、2008年に改修が終わり、現在に至っている。
この場合、「犬と鬼」の故事はつくり手だけではなく、購入し、使用し、維持する側にもあてはまる。なぜならば、この住宅を評価し、購入し、改修を差配し、庭を含めた諸々の果てのない手入れをしていこうと決断することは、瞬発的な山っ気から遠く離れ、対象の美点を見抜き、長く大切に扱っていこうとする持続的で強固な意志が求められるからだ。