特集/その3

引き継ぐ決断と意志

作品/湘南茅ヶ崎の家
原設計/吉村順三
改修設計/樋口善信

1967年に建てられた吉村順三設計の住宅が、改修され、新たな住まい手が暮らしている。
その住まい手と改修設計者には、吉村を理解し、引き継ぐ、強い意志があった。

取材・文/伊藤公文
写真/傍島利浩

 古典『韓非子』に引かれた故事。皇帝に何が描きやすく、何が描きにくいかをたずねられた画家は「犬難(いぬはかたし)、鬼易(おにはやすし)」と答えた。犬は誰もが見慣れた動物なので、凡庸を超えた描写をなして評価を得るのは並大抵ではないが、鬼を見た人はいないのだから、自由勝手に描くことができ、それなりの独創として評価されやすいということだろう。
 この伝でいうと、吉村順三はひたすらに犬をつくり続けた建築家のひとりにちがいない。その点で彼は、小さな住宅から高級旅館、高層ビル、さらには宮殿に至るまで、一度たりとも道をはずれたことはなかった。1970年代の日本では日常の生活の場である小住宅においてさえ、鬼をつくってはもてはやす風潮が高まったが、そこでもなお吉村はそうした風潮と無縁なところに身を置き、迷いなく創作活動を続けたのだった。


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>> 「湘南茅ヶ崎の家」の図面と改修箇所(2008年以降)を見る

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