
住宅建築の継承を考える
対談
住宅遺産トラスト代表理事・
建築家/野沢正光
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東京工業大学大学院教授・建築家/安田幸一
過去に建築家がつくった名作を継承する事例が増えている。住宅遺産トラスト代表理事の建築家・野沢正光さんと、林昌二・林雅子夫妻の自邸「私たちの家」を改修し、自ら住まわれている建築家・安田幸一さんに、継承の実態と秘訣を聞いた。
聞き手・まとめ/伏見唯
写真/藤塚光政
モダニズム住宅の継承の時が来た
——今号は「ヴィンテージ住宅の未来」と題した、名作住宅の改修事例を特集します。改修を経て次代に引き継がれた事例を参考に、過去の名作を継承する方法を考えていきたいと思います。最初に、まさに価値ある住宅建築の継承を考えるための組織である「住宅遺産トラスト」について教えてください。
- 野沢正光
「住宅遺産トラスト」が設立された最初のきっかけは、吉村順三が設計した「園田高弘邸」(1955)です。まだ戦後の建築面積の規制があった頃に建てられた、わずか18坪(建築面積)ほどのすごく小さな住宅なのですが、今日ではまねできないほどに密度の高いすぐれた住宅です。この住宅の施主だったピアニストの園田高弘さんが2004年に亡くなられた後、奥さまが「吉村順三の貴重な仕事なので、この住宅を誰かが引き継いでくれないか」と考えられたのです。その想いに応えようと集まったのが「園田高弘邸の継承と活用を考える会」であり、「住宅遺産トラスト」の前身にあたります。
——ひとつの住宅がきっかけだったのですね。どのようにして、大きな活動に展開したのですか。
- 野沢
「園田高弘邸」は自由が丘の高級住宅地にありますから、土地代だけで相当な金額になることもあり、なかなか引き取り手は見つかりませんでした。そのため、最終的に引き取り手が見つかるまで、4〜5年ほどの時間がかかりました。そのあいだに社会に対して、いくつかのアクションを起こしたのです。ひとつは「音楽と建築の響き合う集い」(08~)。メンバーのひとりの林泰義さん(都市計画家)が、住宅を外に開くことで地域社会を豊かにすることを熱心に考えていたので、その考えに園田夫人も共感され、「園田高弘邸」で演奏会と建築レクチャーを催しました。もうひとつは、「昭和の名作住宅に暮らす―次世代に引き継ぐためにできること―」(12)という展覧会です。この展覧会は、同時期に吉田五十八の「旧倉田邸」(1955)や「新・前川國男自邸」(74)の保存の話が立ち上がっていたので、それぞれの引き取り手を募る意味も含めて、名作住宅の魅力を伝えるために催したものです。この展覧会は、日本経済新聞で「昭和の名作住宅を守れ」という記事になりました。要は情報が全国に広まったということだと思いますが、それ以来ほかの住宅の相談もちらほらと飛び込んでくるようになりました。モダニズム住宅の継承の時期が来たのでしょうね。個別の問題ではないことを痛感し、2013年に一般社団法人として「住宅遺産トラスト」が設立されることになりました。
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