特集/その1

個人的な楽しみでもある

——ヴィンテージ住宅の未来には険しい道もあるようですが、一方で多くの建築家が精力的に、そして前向きに取り組んでいます。

野沢 社会のためだけにやっているわけではないですからね。設計者の都合をいうと、古い建物がどんどん消えてしまうのは、いかにももったいない、とも思っているわけです。自分が名建築を見に行けなくなってしまうから(笑)。冗談のようですが、やはりある時代のすぐれた建築を見に行くのは、ぼくらにとってはすごく楽しいことなんですよ。シュトゥットガルトの「ヴァイセンホーフジードルング」(27/ペーター・ベーレンスほか設計)とか、ブルノの「トゥーゲンハット邸」(30/ミース・ファン・デル・ローエ設計)とか、どこでもよいのですが、そういう古いものを見ながら、「へー」とか、「ほう」とか、思ったりするのですから。経済を優先して建築が取り壊されるのはやむをえないとしても、建築がほとんど無価値だと思われているのだとしたら、自分たちの普段の仕事も無価値だと思われているようで、すごく心が痛むじゃないですか。だから、設計者が感じているような楽しさを、もっと広めたいのです。「私たちの家」だって、やはり多くの人が見に来るのではないですか(笑)。
安田 それは覚悟はしていて、すでに見学会の依頼がたくさん来ています(笑)。こういう住宅を引き継いだわけですから、社会貢献じゃないですが、ある程度は受け入れなくてはならないと思っています。林さんが日建設計の副社長だったときに、ぼくも含めた新入社員10名ほどがこの家に招かれたのですが、そのときにみなで「すごい住宅だ」と思った感動を、今でも鮮明に覚えています。だから、こういう住宅を残そうという発想は、ぼくにとっては、とても自然なことなんです。
野沢 住宅の継承には難しいことがいろいろとあるのですが、それを乗り越えてでも活動できているのは、単純にぼくらの原点や楽しみを守りたいし、伝えたいからでもあります。


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