
嫁ぎ先をどう見つけるか
——住宅は誰かの所有物なので、結局はよい所有者との出会いが、ヴィンテージ住宅の未来にとっては重要なのですね。
- 野沢 ぼくらはいろいろな相談を受けてはいますが、不動産取引をしているわけではないので、住宅を買ってくれる嫁ぎ先の耳に情報が入るように、周知をするのがおもな活動です。ホームページなどでの住宅の掲載や、建築見学会はまるで文化活動のようですが、じつは嫁ぎ先を探すための催しでもあります。坂本一成さんが設計した「代田の町家」(76)でも、「住宅遺産トラスト」主催で見学会や展覧会を行っていたら、「この住宅に住みたい」という方が現れたのです。外国の方でしたが、坂本さん自身の監修によってキッチンなどを改修しました。所有者が変わっても、ちゃんと住宅として継承されましたよ。
- 安田 多くの人の目に触れることが、可能性を広げたのですね。そういう意味では、遠まわりですが、普段から一般の人に建築を理解してもらう、ある種の普及活動が結局は重要なのでしょうか。建築や住宅を取り上げる一般誌も増えてきていますから、少し前とは全然状況が違います。
- 野沢 私もこの活動を通して、一般の人と建築の話をする機会が増えてきていますが、吉村順三のファンがとても多いということをあらためて認識しています。弟子筋の私がいうのもなんですが、吉村さんの住宅は割と普通に見えるのに、一般の人からきわめて評価が高い。東京藝術大学で催された吉村順三展には、すごい数の来場者が訪れましたから。一般の人が建築家のヴィンテージ住宅に付加価値を見出してくれるかどうかは、全般的にはわからないのですが、少なくとも吉村さんに関しては不動の評価がありますよ。これはもはやブランドといえるかもしれません。
- 安田 吉村さんのファンが多いというのは、建築業界全体にとってもすごくよいことですね。吉村さんと同じようにほかの建築家も認知されるようになれば、ヴィンテージ住宅の市場にも変化があるかもしれません。変にブランド志向だけがあると偏屈な感じになるかもしれませんが、質の高い家を大事にする志向につながってくれば、よい傾向になりそうです。最終的には、設計者の名前に左右されずに、冷静な目で建築の良し悪しを判断できる社会になるとよいですね。
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