特集/その1

住宅以外の用途へ

——住宅以外の用途へのコンバージョンについてはいかがですか。

野沢 先ほどの「園田高弘邸」は、半分は住宅、半分は別用途のように使われています。「園田高弘邸」の引き取り手は大阪に住んでいる吉村順三のファンの方で、自宅は大阪にありますから、東京に出てきたときのセカンドハウスや、仕事の打ち合わせスペースなどに使われているそうです。われわれにこれまでの活動を継続してもいいよと言ってくださっているので、引き続き「音楽と建築の響き合う集い」の開催場所でもあります。この住宅の場合は、園田夫人も新しい住まい手も、住宅を開く活動をとても楽しんでくださっていることが重要なんです。こういう活動は、楽しまないと続きませんから。
安田 それはよい残り方をしましたね。自分のことを棚上げしていいますと、名作住宅とはいっても、必ずしも住宅として継承されなくてもよいのではないかと考えています。もちろん住宅には人が住んでいるほうが、建築本来の息吹きが生きることになるとは思います。ただ、人口が減少してますます住宅が余っていくようになると、住宅として残すだけでなく、余裕のある組織や人たちの手によって、セカンドハウスやギャラリーに転用されるのもよいことだと思っています。昔、フィリップ・ジョンソンが設計した「ロックフェラー・ゲストハウス」(50)を見に行ったときに、ロンドン在住の画商が買い取って、竣工当時のオリジナルの姿に戻すという工事をしていました。その後、すごくきれいな状態になってギャラリーとして継承されていました。復原というより、むしろ質の向上という印象でした。そうした継承は、死殻(しにがら)を残す行為では決してなく、新しい生き方を与える行為だと感じたのです。
野沢 移築された例ですが、坂倉準三が設計した「旧飯箸邸」(41)を転用したドメイヌ・ドゥ・ミクニというレストランもありますね。また、明治村や江戸東京たてもの園のように、博物館の教材として、あるいは建築史の説明として、過去の建築を時間をとめて保存する、という考えも重要です。これらの住宅にも新しい生き方が与えられています。先ほども言いましたが、今とはかなり異なるライフスタイルを想定してつくられた名作住宅を、無理に現代住宅にしなくてもよいのかもしれません。住宅以外に転用された幸せな事例は結構ありますから。いずれにしても、うまくいった事例はよい嫁ぎ先が見つかったものばかりです。


>> 住宅遺産トラストがかかわった住宅 − 園田高弘邸
>> 住宅遺産トラストがかかわった住宅 − 加地邸
>> 住宅遺産トラストがかかわった住宅 − 代田の町家

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