特集3/独学の建築家

実現のためには、試論の連続

 しかし、ここからが試練の始まりだった。最大の難関は構造上の問題である。CGでは描かれていないが、四周には当然、地震時のゆがみを抑えるための柱が必要であり、柄沢さんはこの柱をできるだけ細くしたいと考えていた。しかし、解析の結果、柱の直径は最低56㎜は必要であることが判明。この太さでは柱が目立ってしまい、到底、目指すネットワーク型の建築を表現できない。ただし、構造家によると、四周の柱を細くするための方法がひとつあるという。それは建物を取り巻き、庇の役目も果たす梁を、既製のH鋼を用いずに特注し、6㎜厚のスチールプレートをボックス状に組んで溶接してつくるという方法だった。これなら全体の剛性が増すため、柱の直径は44.6㎜ですむ。
 しかし、これだけ特別なオーダーメイドをすれば、当然コストはかさむ。その差額はじつに1000万円以上。四周が繊細な柱で支えられているという危ういバランスが建築の美しさにつながることは自明だが、わずか11㎜ほど細くするために支払う金額としてはあまりに大きい。だが、柄沢さんから説明を受けた建主は、なんとこの多額の予算増を即座に認めたという。実現に向けた情熱はもはや柄沢さん以上だったのかもしれない。
 純粋な構造体のみが立ち上がった姿を実現するため、電気配線や給排水・空調などの配管はすべてボックス梁内に納め、24時間換気のダクトもこの梁が兼ねている。さらに、屋上で集められた雨水は室内の斜めの壁内に仕込まれた樋を経由して地下に流れ落ちるという徹底ぶり。つまり、設備をすべて統合した構造体といえるだろう。


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