特集3/独学の建築家

特殊な与件だが、想いは共有

 世にも珍しい依頼を受けた柄沢さんは、その当時、ネットワーク状の空間をつくるうえで発想のヒントとなるふたつのプロジェクトに携わったばかりだった。ひとつは千葉の別荘「villa kanousan」(2009)、もうひとつは中国の地下都市プロジェクト「瀋陽市方城地区計画」(09)。これらの設計を通じ、ある法則に基づいて、複雑に立体的に入り組んだ構造体をつくることによって、空間自体が編み込まれ、絡み合っているような建築が生まれるのではと思いついたという。そこから、現在のような「複雑な階層状のネットワーク」のモデル、すなわち交互に梁と庇になる構造体が建物の周囲を巡り、市松模様状に床と吹抜けが配される構成が出来上がった。
 この新しい空間形式を突き詰め、ほぼ形になったところで、柄沢さんはグループ展でこの家の模型を発表することに決め、展覧会に建主を招いた。建主はひと目見るなり、自分の人生のテーマがそのまま空間になっており、造形的にもきわめて美しいと非常に満足し、正式に設計契約を結ぶことに決めた。
 土地も無事に見つかった。駅からは徒歩圏内だが、私道に面した密集地で車が入れないため格安で、その分、建物に予算をまわせることになった。密集地の袋小路にある空地にはもともと家が立っていたため、隣接する三方の家々にはこちらに面した開口部がほとんどなく、ガラス張りの箱を建てても結果的に非常にプライバシーが守られることがわかった。


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