
建主は「ネットワーク哲学」の研究者
まるで導かれるように、そんな柄沢さんに住宅設計を依頼してきたのが、この家の建主だった。大学で教鞭を執る建主の専門は「ネットワーク哲学」。複雑なネットワークをもつ自然界にいち早く着目し、自然科学の知見を哲学に導入したことで知られるフランスの哲学者ミシェル・セールの研究者で、最初の打ち合わせでも住まいに関する一般的な要望はほとんどなく、哲学談義に花が咲いたらしい。物事はすべてまっすぐ落ちていくだけだと考えたデモクリトスとは異なり、セールが影響を受けたルクレティウスは、物事が斜めに動いてぶつかり合うことによって世界が生まれるという「クリナーメン」という概念を提唱した。このクリナーメンをなんとか建築にできないかと話したというのだ。
また、予算は示されたものの、まだ土地も購入しておらず、まずはネットワーク哲学を体現するような建築を形にし、デザインが固まったら、それがうまく納まり、かつ通勤に便利な土地を探すことになったそうだ。
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